臨床研修と医師不足 その微妙な関係
こういうシステム
昨今、地方を中心に医師不足が話題に上がることも多くなりました。原因の一つとして、04年度から始まった大学卒業後の臨床研修制度が挙げられることもしばしば。大学を卒業したての医師たちが、地方の大学に残らず、都市部や市中病院へ出て行ってしまうようになったというのです。こうした批判を受け、新年度からは制度が少し変更されるようです。
なぜそんな声が挙がるのか。本当にそれが医師不足の原因なのか。
制度改正で問題は解決するのか。これらの疑問に答えを出すには、医師がどのように育っていくものかを知る必要がありそうです。
医学部を卒業して医師国家試験に合格すると、晴れて医師免許を手にできます。ただし、免許取り立ての段階では知識はあっても経験ほぼゼロ。いきなり独りで医師として働かれたら恐ろしくてかないません。
そこで大学卒業後は、初期臨床研修(スーパーローテート)2年が公的制度で義務づけられ、加えて後期臨床研修(専門科別)3年の計5年間、トレーニングを受けるのが一般的。その期間中は研修医(「レジデント」と呼ばれます)として半人前に扱われ、研修が済んでようやく一人前の医師と見なされます。医師が育つには大学6年を含め10年かかると言われるのは、この計算です。
「研修」の中身は、指導者に従って実際に診断して治療してみるしかありません。自動車運転免許の教習で、教官を助手席に乗せて実際に路上に出ますね。あれと同じことです。
その実際にやってみる範囲は、あらかじめ大枠が決まっています。初期研修はスーパーローテートの名でも分かるように、その2年間で主要な診療科を数カ月ずつ巡回していきます。研修施設によってコースには微妙な差異がありますが、内科、外科、救急(麻酔科含む)、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の各部門は必ず回るように定められています。
現在の初期臨床研修制度が始まるまでは、卒業後すぐ大学病院の特定の診療科(「医局」と言います)に所属して、最初から専門科の研修を始めるのが一般的でした。
ところが、医局での研修医の待遇があまりにも悪かったことと、専門科研修から始めると医師の視野が狭くなりかねないことに批判の声が高まり、また、一部の有名市中病院で独自に受け入れていた「研修卒業生」たちの質の高さが評価されていたこともあって、それらの独自研修を参考に2年間の総合的研修制度が新設されたのです。この期間は、残業なしアルバイト禁止です。
そして2年間が終わったら、自分の進みたい診療科を選んでさらに研修を積みます。この後期研修には公的制度はありません。