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情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

どうなっちゃうの? お産が危ない!

どうしたら崩壊を止められるの?

 では、この状況をいったいどうすればよいのでしょうか。
 毎度同じことを申し上げて恐縮ですが、医療は誰かに施されているものではなく、私たち受益者が税金や保険料で費用を負担しているものです。どのような形が望ましいのか考えて要求する権利があります。行動する義務があります。ご自分の問題として考えていただければ幸いです。
 勤務が過酷という点から順に、検討します。
 一つの施設に産婦人科医が3人以上いれば、勤務は随分と楽になります。現在の陣容のままで安全性を確保しようと思ったら、産婦人科のある施設を減らして医師を集約するのが必然的な解決策になります。厚生労働省や学会も、この方向で動き始めています。
 このままでは、「近所で」という願いはぜいたくなことになります。しかし、医師の総数が増えれば話は別です。
 産婦人科医に高齢者や女性が多く、常勤に向かないという話を思い出してください。この人たちをパートタイムで雇って、シフト制を敷いたらどうでしょうか。
 障害となるのは、産婦人科が病院からすると儲からない部門なため、医師を余分に雇う余裕のないこと。分娩取り扱いの費用を倍にするなどすれば、随分と状況は改善します。少子化対策に大金を投じていることからすれば、高くなった部分を公費助成してもよいはずです。若手医師不足解消の一助になるかもしれません。
 とはいえ、すぐに値上げはできないでしょうから、当面は遠くの施設でも「近所」と同じように使える方策が必要になります。妊婦さんの移動には救急車の有効活用を検討するべきでしょう。本当にハイリスクな分娩の場合は、地域外の中核施設まで運ぶヘリコプターのような体制も必要かもしれません。
 次は訴訟リスクについて検討します。
 不幸な結果が出た時、原因究明と心のケアがあって当然なのですが、現状ではその仕組みがあいまいな上、医療側の過失が証明されない限り補償すらされません。患者側は医療者の過失を立証しなければならず苦痛が増えますし、医療者側からしても過失を認めると犯罪者にされかねないので、互いに消耗するだけの不毛な争いが起きます。
 誰も悪くなくても悪い結果が起きる可能性があること、一方で患者は補償されて当然であることを考えるならば、過失が立証されなくても補償が行われる制度があってもよいのではないでしょうか。
また、通常の医療行為を犯罪に問うことが妥当なのかも考えていただきたい点です。不幸な結果が出た場合にめざすべきは被害救済であり、真相解明と再発防止であるはずです。制裁を優先するあまり、その目的が達成されなくなるなら本末転倒です。
医療界は外部に対して情報を積極的に公開してきたとは言い難いので、自浄作用に対する不信感が強いのも理解できます。
 かといって、犯罪者になりたくないと病院から逃げ出す医師の首に縄をつけて繋ぎとめておくこともできません。公的な調査紛争処理機関が必要なのではないでしょうか。

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