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理解されていなかった診療報酬と補助金の違い-「事業仕分け」に海野信也北里大教授

 「人口密度が低かったり、インフラが整っていなかったりと、地域間格差があるために診療報酬で賄い切れない医療提供体制の部分をカバーするのが、補助金の役目。だから補助金をゼロにされる困るのです」―。行政刷新会議の「事業仕分け」で救急・周産期医療に関する補助金が削減される判定が出された際に抜け落ちていたポイントについて、周産期医療制度に詳しい海野信也北里大産婦人科教授に聞いた。(熊田梨恵)

――事業仕分けでは厚生労働省の「医師確保、救急・周産期対策の補助金等」事業(573億9700万円)が「半額計上」と判定されました。病院の収入は診療報酬で確保すべきとして、診療報酬の配分の見直しを求めています。赤字補てんのために付けられた補助金は診療報酬をきちんと配分していればそもそも必要なく、診療報酬と役割が重複しているから削る、という主張です。
 
診療報酬で見るべき部分と、補助金で見るべき部分を、きちんと切り分けて考えなければなりません。問題は地域間格差なのです。実診療部分はきちんと診療報酬で賄われることが基本ですが、地域によっては基本的なインフラが未整備のところもありますし、人口密度が低過ぎて効率的な運営ができないところもあります。そういうところに補助金が必要になるのです。

――「診療報酬」と「補助金」はそもそも役割が違うと。

つまり、救急受け入れ体制の整備というのは、ある意味「行政サービス」としての「医療提供体制確保」であり、そのための経費が補助金です。そして実診療部分はきちんと診療報酬で賄われる、というバランスが必要です。診療報酬で十分黒字になり、人件費を支払い、人員を増強して診療内容を向上させていくことが基本です。一方で、救急医療を行っていくには患者を受け入れるための空きベッドを確保しておくことが必要で、その分の経費を患者の診療報酬で賄うのは、公正とは言えないと考えられます。

――いつでも救急患者を受け入れられるように空きベッドを確保したり、スタッフの配置したりするというように、そもそも非効率にならざるを得ない医療提供体制については、行政サービスとして保障すべきということですね。しかもそこには地域間格差が大きく影響するので、診療の対価である診療報酬ではなく、補助金で対応すべきと。

地域の実情に即して、診療報酬で賄いきれない部分については、最小限度の補助金で医療提供体制を確保する必要があります。そこまでの配慮は事業仕分けではできないでしょうから、今後もっと精密な議論をして、診療報酬で見るべき部分をちゃんと見た上で、必要な補助金は残していただきたいのです。
 
――今回の事業の「半額計上」はどうなると見ますか。

既に行われている救急の補助金と、新規のNICUの補助金がある中で、全体を半額にしようとすると、救急の補助金を切ることが非常に難しいのは自明のことです。施設閉鎖につながりかねませんので。そうなると既存の救急の方は残して、新規を切る。つまりNICUの補助金は「ゼロ」ということになり、昨年来の周産期救急医療の検討の中で、NICU不足の問題に政策的に取り組もうとしている意気込みに、完全に水を差すことになるわけです。

事業仕分けの際に、なぜこのような新規補助金が構想されたのかという検討が必要なはずですが、その辺まで十分検討されたかどうかに疑問を感じています。今回のように"担当違い"のところに押しつけるやり方では、いつまでも弱者は救済されないのです。


 
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