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患者家族が新生児医療ガイドライン策定に参加

 日本未熟児新生児学会(戸苅創会長)が、このほど『未熟児動脈管開存症ガイドライン』を作成・公表した。治療法などに関する33項目の推奨レベルを決定する際、すべての項目で患者家族とコメディカルの意見を取り入れた。参加した患者家族は、「ガイドライン作成過程が患者家族にオープンにされたことに意義があったと思います」と振り返る。この策定プロセスが広がれば、医療者と患者間にある知識や認識の違いを緩和する一歩になるのかもしれない。(熊田梨恵)

 ガイドラインは1000グラム未満の早産児の未熟児の7-8割がかかるとされる未熟児動脈管開存症に関するもの。新生児の心臓の近くにある大動脈と肺動脈の間には、肺呼吸のない胎児期にのみ使われている動脈管という血管があり、通常は生後数日でふさがり退化する。しかし、肺呼吸がうまくいかなければ閉じないままになり、動脈管開存症と呼ばれる心臓病になる。血液の流れが滞り、肺や脳で出血することもあるため、生後一週間以内に心臓手術をすることも多い。
 
 ただ、動脈管閉鎖の誘導に有効とされるインドメタシンの使用法など、施設間での治療内容に格差があることが問題視されていた。どの地域でも標準的な医療を提供できるようにと、同学会の「医療の標準化検討委員会」(楠田聡委員長)は30-40歳台の若手新生児科医にガイドライン作成を依頼。英国国立医療技術評価機構(NICE)で出産などのガイドラインを策定した経験を持つ森臨太郎氏(東大大学院医学系研究科国際保健政策学准教授)と、未熟児動脈管開存症の専門家の豊島勝昭氏(神奈川県立こども医療センター新生児科医長)が中心となり作成を進めた。
 
■根拠の検証と総意形成へのこだわり

 このガイドラインは、根拠の検証や推奨レベルの決定に関する過程が他のガイドラインとは大きく異なる。国内のガイドラインは一般的に、学会が中心となって対象となる病気や治療法に関して詳しい医師が診断や治療などに関する項目の推奨を決定し、作成していく。このガイドライン作成過程をデザインした森氏は、「学会は専門家集団なので、当然偏りが出ます。それは当然で、新生児科医だけが集まれば新生児科医に有利なものになります。例えば、小児の中耳炎のガイドラインで、小児科医と耳鼻科医の作ったもので内容が違うということがありました。患者さんにとってはそれでは困りますよね。それぞれの医師には違う意見があるわけですけど、患者さんは自分の状態にとって一番正しい一つの事をされたいので、それぞれの違う意見はどうでもいいのです」と指摘。また、診断や治療などに関する科学的根拠の導き方についても、「日本はその部分が弱く、整備されていないです」と問題点を話す。
 
 今回のガイドライン作成では、国内41施設の新生児科医や疫学者、図書館職員など66人がインターネットを通じて集まり作成チームを結成。メンバーが国内120施設にアンケートし、未熟児動脈管開存症の予防や診断、治療などに関する疑問の項目をまとめた。次に、文献検索に詳しい図書館職員のメンバーが未熟児動脈管開存症に関連する文献を国内外のデータベースから網羅的に収集。それを基にメンバー全員が疑問項目に関する科学的根拠についてメーリングリストで意見交換し、仮の推奨レベルを決めた。さらに、地域差をできるだけ解消し、他職種や患者家族の視点も取り入れるため、組織的に意見を集約する技法の「デルファイ法」を3回実施。地方の小児科医や看護師、薬剤師、患者家族ら19人が参加して項目に対する仮推奨に意見した。最後にインターネットを通じてガイドラインに対する意見を公募し、33の項目に対する推奨レベルを決定。完成までに約4年を要した。
 

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