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緩和ケアのこと知ってますか?

何をするの? どんな時に出番?

 緩和ケアが、患者や家族のQOLを可能な限り高めることをめざすと書きましたが、具体的には誰に対して一体何をしてくれるのでしょうか。
 まず対象ですが、現在の日本では、「がん」とAIDS(後天性免疫不全症候群=06年5月号参照)の患者が主となっています。
 次に何をしてくれるのか。ここでは、緩和ケアマニュアルの整備されている「がん」を例に見ていきましょう。
 多くのがん患者が痛みを訴えます。がんそのものによる痛みの他に、手術などの治療による痛みもあるでしょうし、また神経に傷がついている場合もあるでしょう。
軽いけがや腹痛などは、我慢していればそのうち治まりますね。でも、がんの痛みというものは繰り返し襲ってきますし、我慢したから慣れるという筋合いのものでもありません(コラム参照)。
 痛ければ、安眠できないでしょうし、冷静な思考能力もが失われるでしょう。体力も消耗します。当然、痛みをコントロールしなくては、患者もそれを見守る家族もQOLが下がります。
 めざすのは、安眠を妨げない、安静時に痛まない、体を動かしても痛まないの三段階の痛みコントロールです。
 その目的を達成するために、一般鎮痛剤を使ってみて、それでもダメならオピオイド(医療用麻薬)を用います。最近では両者を併用することも増えています。痛みを取るような使い方をしている限り麻薬中毒になることはありませんので、ご安心ください。
 増大した腫瘍が何かに触れて痛みが出ている場合や骨転移の場合には、問題となっている部分だけに放射線を当てて焼くこともあります。
 次のコントロールすべきとされるのが、食生活など消化器の不調です。毎日の食事は生きる喜びに直結しており、それが望めないような食欲不振、便秘、吐き気などは直ちに取り除かないと、やはりQOLが下がります。
 原因疾病の対症療法をすると共に、患者の好物を食べさせる、口腔ケアを行うなどといったことになります。
 そして、患者や家族にとって体の苦痛を和らげるのと同じくらい重要なのが、精神的サポートです。患者は不安・抑うつを抱えがちです。大切な人を亡くした方のサポートをすることも役割です。
 要するに、死は避けられないとしても、患者や家族のありとあらゆる苦痛を取り除くため、医療技術をフル活用するのが緩和ケアです。他科の医師が治療の片手間にこなせるようなものではありません。

緩和ケアが実践すること 1生きることを尊重し、誰にも例外なく訪れる「死に行く過程」にも敬意を払う。 2死を早めることも、死を遅らせることも意図しない。 3傷みのマネジメントと同時に、痛み以外の諸症状のマネジメントを行う。 4精神面のケアやスピリチュアルな面のケアも行う。 5死が訪れるとしたら、その時まで積極的に生きていけるよう患者を支援する。 6患者が病気に苦しんでいる間も、患者と死別した後も家族の苦難への対処を支援する。
痛みは我慢しないで  日本人は我慢を美徳と考えがちですが、こと痛みに関する限り我慢してもちっとも良いことはありません。痛みを感じる神経回路が敏感になって、どんどん痛みが強くなる悪循環に入ってしまいます。また、心理的な不安があると痛みを強く感じるようになり、それがまた心を弱くするという悪循環も知られています。痛みがあると免疫力も低下します。がんなどの痛みと不安を両方抱えた患者さんは、特に積極的に痛みを取りましょう。

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