かかりつけの薬剤師と薬局の価値~駒村和雄の異論・反論➉
循環器内科医 駒村和雄
在宅医療は、かかりつけ在宅医が中心となって、薬剤師さんはその傍で補佐するというのが、長らく筆者のイメージでした。したがって「かかりつけ医」のイメージはあっても、最近よく耳にする「かかりつけ薬剤師」のイメージは描けませんでした。しかし最近、薬剤師会の幹部の方から説明を受ける機会があり、薬剤師さんたちが予想以上に真剣に取り組んでおられ、かかりつけ業務についても実働している薬局が増えていることを知り、驚きました。
かかりつけ薬剤師の重要な業務の一つにポリファーマシー(多種類の薬剤投与による有害事象)の改善があります。
筆者の外来に紹介されてきた90歳の女性でも、こんなことがありました。複数の医療機関から計12種類を処方されており、しかも中身が時々変更になります。定期処方は一包化してありますが、飲み忘れや飲み間違いを頻繁に起こします。糖尿病の内服薬を間違えて低血糖で倒れてからは、息子さんが付きっきりで世話をするようになり、その息子さんは薬剤の整理を望んでいました。
本邦では、薬物有害事象は6種類以上で有意に増加すること、転倒の発生頻度は5種類以上で有意に増加することが報告されています。幸い2カ月以上かけて4種類にまで減らすことができましたが、外来の度に、減らした翌日に救急搬送されてこないだろうかと、びくびくしながらの減薬でした。
かの薬剤師会幹部によると、彼らに協力してもらえば、睡眠薬は約3分の2に、抗不安薬は約3分の1に、さらに抗精神薬は約6割の投与量まで減らせた、との実績が論文で報告されているそうです。今後はぜひ相談しようと思った次第です。
病気でない地域住民が気軽に相談に立ち寄れる「健康サポート薬局」なるキーワードもあり、こちらもどうせお役人が机の上で作った造語だろうと気に留めていませんでした。ところが大阪のある薬剤師会では、地元医師会・歯科医師会と連携して、既に複数の薬局に検体測定室を設置、相談者の自己採血で糖尿病の指標HbA1cを測定して、薬局から患者紹介状や受診勧奨状を発行することが可能となっているそうです。
さらにまた薬剤師さん主導の臨床研究では、2型糖尿病患者さんが薬をもらいに薬局に来た時にたった3分間コーチングをすることで、コーチングしない糖尿病患者さんよりもHbA1cが低下したそうです。薬剤師さんもやるな、と思いますね。
ポリファーマシーについて訪問看護師の方が言っておられたことを思い出します。在宅医療の現場で、医師、薬剤師、看護師が連携すると言っても、薬剤師や看護師の言い分に耳を傾ける医師が実際には極めて少ないのだとか。
筆者も既に還暦。あと少々で在宅訪問される側に回る可能性もあります。かかりつけ薬剤師さんには、今からエールを送っておこうと思います。