あの素晴らしい眠りもう一度。睡眠障害を語る。
眠りが何のためにあるのか、どんな役割を果たしているのか、実は分かっていないことがたくさんあります。ただし、他の動物と比較することで、睡眠がどのように進化してきたかは分かります。また、眠っている時に活発になる生理現象や、眠らないと出てくる不都合は色々知られているので、睡眠の役割もある程度は類推できます。
動物が「睡眠」という行為を誕生させたのは、昼か夜かどちらかだけ行動した方が生存に都合が良く、行動しない時間帯は活動レベルを落としてエネルギーを節約する方が都合良かったためと考えられています。その後、進化して脳が発達してくるに従って、睡眠は脳の休養・回復という積極的意味を持つようになってきました。
人間の場合でハッキリ分かっているのは、睡眠に「レム睡眠」「ノンレム睡眠」の2種類があることです(コラム参照)。レム睡眠は原始的な眠り、ノンレム睡眠の方が高度な眠りと考えられています。
そして深いノンレム睡眠時には、脳の下垂体から成長ホルモンが盛んに分泌されます。成長ホルモンは、成長期なら体の成長に、成人後なら体の修復に使われます。「寝る子は育つ」は真実ですし、「寝不足は肌に出る」もまた真実というわけです。
免疫系を活性化させるインターロイキン1やサイトカインなどの物質も、眠っている時の方がよく出ます。そして、これらの免疫活性化物質によって眠りが深くなることも知られています。風邪などをひいたときに眠くなり、眠ると治りが早くなるのはこういうメカニズムです。
眠らないと出てくる不都合は主に脳機能のことです。眠気が出て不快になるのは当たり前として、記憶力が低下したり、注意散漫になったりして、作業能率が低下することが実験で確かめられています。また、感情が沈みがちで無気力になる一方で、激高しやすくなるのも間違いないようです。仕事ができない上に、すぐキレるというわけですから、周囲の人はたまったものではありませんね。
ともあれ以上のことから、起きていると脳が疲れること、眠らないとその疲れが抜けずに能力が低下することが分かります。
昔、睡眠とは、脳が疲れて覚醒レベルを維持できなくなると起きる受動的なものと考えられていました。しかしその後、脳の中に睡眠を制御する部分があることが分かり、脳自身が自らを修復し機能を維持するため、積極的・定期的に睡眠を起こしていると解釈されるようになりました。
これが何を意味するかというと、日頃よく眠れる人の脳はよく働いているということであり、その眠りによってまた脳が活性化する良循環と、その逆の悪循環とがあるということです。
よく眠れると書きましたが、これがまた分かったような分からないような話です。医学的には、「すぐ眠れる」「すっきり目が覚める」「日中の過度な眠気がない」の3つを満たせば、良い睡眠であると判定します。
では、どうやれば良い睡眠が得られるのでしょうか。それを次項から見ていきましょう。
レム睡眠とノンレム睡眠 寝ている人や哺乳動物を観察すると、まぶたの下で眼がぴくぴく動いている時間帯と、動かない時間帯があります。眼の動いている時間帯に発生しているのがレム睡眠。レムは、「Rapid Eye Movement(眼の速い運動)」の頭文字です。 レム睡眠は、意識が低下した状態で体が勝手に動き出さないよう、筋肉に力が入らないようになっています。この状態で意識が戻ると、いわゆる「金縛り」になります。ノンレム睡眠とは、「レム睡眠でない眠り」という意味で、ぐっすり眠っている状態です。脳が休み、回復しています。 健康な成人では、この2種類の眠りが約90分ごとに繰り返され、その区切りの時間が目覚めやすいです。また、最初の繰り返し2回分の3時間が脳のためには大切です。