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新薬の来る道。治験を探索してみよう。

どんな人が受けられるの?

 お待たせしました。患者にとって、治験はどんなメリット・デメリットがあるかをご紹介しましょう。
 まず被験者は原則としてボランティアになります。他に関与する機関が対価を受け取るのに不公平だと思うかもしれませんが、こうなっているのは貧乏な人がお金目当てに、不要な治験を受けることのないようにとの配慮からです。輸血用の血液が、売血から献血に切り替えられたのと同じ発想ですね。
 とはいえ、何のメリットもなければ被験者が集まりませんので、治験で使う薬の代金や薬の使用に関連する検査の代金、交通費補助など、治験参加施設の治験審査委員会が審査承認した方法による、ある程度の金銭授受はあります。
 では、治験の進め方を順に説明します。治験は通常3段階で行われます。
 それぞれを第Ⅰ相(フェイズ1とも言います)試験、第Ⅱ相(フェイズ2)試験、第Ⅲ相(フェイズ3)試験と言い、調べる内容と被験者の条件とが異なります。
 第Ⅰ相試験は、ヒトに対して我が国で初めて使用する薬剤の安全性や、副作用と薬の量との関係を見るものです。通常は健康な人が被験者になるため、ボランティアという建前はすっかり形骸化し、協力金目当てのアルバイトとして捉えられていることが多いようです。インターネットなどでも、日常的に参加者を募集しています。ただし、抗がん剤の場合は患者さんが被験者となるのが一般的です。
 第Ⅱ相は、実際の患者さんに被験者になってもらい、効果と副作用の案配がちょうど良い用法・用量の見当をつけます。
 ここまで通過すると、いよいよ偽薬や今標準的に使用されている薬との比較試験である第Ⅲ相です。有効性や安全性を真に確かめるために、被験者数も一気に増え、いわば治験のヤマ場です。この際、最も厳密に検討するためには、患者さんにも医師にも、使う薬が治験対象薬なのかそうでないのか、分からないようにします(二重盲検法と言います)。この方法を使うかは、薬の性質や患者さんの病気によります。
 もっとも、すべての薬が3段階の治験を要求されるわけではなく、抗がん剤や患者さんが少ししかいない病気の場合や劇的に効く薬の場合などは、第Ⅱ相が済んだところで承認してしまい、市販後に追加で有効性や安全性のデータを集めることもあります。
 治験を受ける患者は、まだ承認されていない新薬候補を投与してもらうことができます。難治など他に治療の選択肢がない場合、大きなメリットと言えるでしょう。治験に関連する医療費が免除されるほか、若干の協力金などが支払われることもあります。また少し視野を広げれば、献体と同じように医学の進歩に貢献できると考えることもできます。
 ただし新薬だからといって必ずしも画期的とは限りませんし、通常の薬よりはリスクが高くなります。また、薬の効果を厳密に測るために、血液など検査の回数が増えたり、薬の内服時間を記録する必要があったり、決められた日に必ず通院しなければならなかったり、と通常の治療よりも生活上の制約が増える可能性はあります。
 さらに薬効を正確に評価するため、当該疾病以外は状態が良くて体力もある「患者の中の五輪選手」しか治験を受けられない傾向があります。この点について、状態の悪い自分の患者に使ってあげたい現場の医師と、状態の良い患者に絞りたい製薬会社とで利害相反が起きるのです。

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