新薬の来る道。治験を探索してみよう。
ここまで読んできて、果たして自分に関係あるだろうか、と思ったかもしれませんね。
実際、治験のことが世の中に広く浸透しているとは言えませんし、一生関係ないまま過ぎる人の方が多いはずです。しかし、どんどん新しい薬・療法に登場してほしいと考えているなら、やはりこの問題についても少し考えていただければ幸いです。
というのも、日本では欧米に比べて被験者が極端に集まらず治験のコストが高くつくため、日本での治験・承認申請を後回しにする製薬会社が増えているからです。ただし、被験者が集まらないのは、日本の医療が悪いからではありません。
自分の身に置き換えてみると分かることだと思いますが、既にある程度有効な治療法・薬がある場合、治験を受けたいとは考えないはずです。なぜなら国民皆保険によって、お金のあるなしにかかわらず、一定レベルの治療は保証されるからです。米国などでは、無保険の人々が無償で医療を受けるために治験対象になる例が多いようです。
他に選択肢がない場合、今度は患者の状態が悪いことも少なくありません。状態が悪くて被験者になり損なった人は、薬が海外で流通している場合、高い費用を払って個人輸入するかどうかの選択を迫られます。これが、海外で使われている薬が日本で使えないという「未承認薬問題」の一つの構図です。
特に抗がん剤を中心にアメリカやヨーロッパで承認された薬については、国内で早く治験し早期申請するよう国から製薬会社に促すという「未承認薬使用問題検討会議」が昨年から設置されました。元々、抗がん剤では、日本のデータにこだわらず海外のデータも利用して申請・承認されることが多く、海外データのある薬がより有利になったとも解釈できます。
これは海外の薬を日本でもいち早く使えるようにする一つの方法ではありますが、緊急避難的な要素は拭えません。たとえば血液の固まりやすさが欧米人とアジア人とで異なることは有名で、欧米人のデータ通りの結果が出るとは限りません。最近は抗がん剤の有効性や安全性も、遺伝子の差によって異なるとの報告が多く出ています。
そもそも海外で承認された後に「検討会議」にかかるのでは、どうしても日本での申請・承認が遅れるのは避けられません。したがって、最近は海外で申請が出される時、その国に提出される試験に日本も参加してしまう「国際共同治験」が推進されています。
治験の大切さは、もっと下世話な説明もできます。医療費が高い、高いと言われていますが、そのうちのかなりの部分を薬や医療器具が占めています。日本での申請・承認が遅れることにより、非常に高く設定されがちな海外での新薬価格が参考にされて、日本でも新薬の価格が高くなるという現象が起きています。申請・承認の遅れは、患者さんの懐も直撃するのです。
そんなこと言われたって、自分はどうすればいいのだ。だいたい治験の申し込み方じたい分からないよ、と困惑しているかもしれませんね。
どの病気に関する治験が行われているか、最近では新聞やインターネットなどで広告できるようになっています。また医師には、情報が入っていることが多いです。その医療施設で治験を行っていない場合は積極的に教えてくれると限らないので、まずは主治医に「もし該当する治験があったら知りたい」と伝えてみてください。
もちろん、事は自分の命に関わります。迷いがなくなるまで、医師や医療施設の説明を聞いてください。迷いがあるのに治験を受ける必要はありません。どうやったら迷いなく治験を受けられるのか、そんな議論を始めてもよい時期なのかもしれませんね。
治験コーディネーターとインフォームドコンセント 治験実施施設の中で、治験をGCPに沿う形で円滑に進めるのが「治験コーディネーター」(CRC)です。看護師や薬剤師、臨床検査技師などが務める場合が多いようです。被験者の心のケア、スケジュール調整や事務作業なども行いますが、特に被験者のインフォームドコンセントが重要な職務です。治験内容の説明は必ず文書で、被験者がメリット・デメリットを十分理解したうえ、自由意思で参加に同意することが必要です。