治療が消える 治療を守る⑧
医療機器や医療材料の供給に関する構造的課題を探っていくコーナーです。
実は日本医師会が......
前回までで、既存の機器より優れているから別の機能区分にしてほしいとメーカーがC申請しても認められない場合がある、誰が判断しているんだろうか、というところまで話が来ました。
薬事承認から保険収載までの間にどのような過程を経るか、中央社会保険医療協議会(中医協)には図のような流れが示されています。
C申請されたものは図右側の流れを通ります。一般的には、非公開の『保険医療材料専門組織』で判断されているということになっているのですが、実態は違うとの指摘があります。
疑義解釈委員会?
今年4月、医療機器産業研究所の中野壮陛・主任研究員が『革新的医療機器の保険収載プロセス』と題した報告書を発表しました。C申請を行ったメーカー担当者にアンケートを行い、それをまとめたものでした。
その中に、こんなメーカー担当者の声が記されていました。「最近のC1、C2申請では、医療課ヒアリングの後、非公式の委員会(疑義解釈委員会)が開催されており、その委員会での照会対応などで時間を要するケースがある」、「医療課ヒアリング終了~医療材料専門組織のプロセスが不明瞭であり、このプロセスの透明化および期間短縮が望まれる」。
何やら図に示されていない関門があるようです。前々回も登場した厚生労働省保険局医療課の佐久間敦・課長補佐に尋ねると「恐らく日本医師会の疑義解釈委員会のことだと思います。医師会に取材していただいた方が」と言うので、なぜここで日本医師会(日医)が出てくるのか疑問に思いながらも、日医事務局の指示に従いファクスで取材を申し込みました。
6日後、「担当の常任理事の都合がつかない」という理由で取材を断る旨の返答が来ました。6月23日のことです。参院選を控え多忙というのは分からないでもないので、選挙が終わるのを待つことにしました。その間に、担当の常任理事とは中医協の委員でもある鈴木邦彦氏だという情報を得ました。であれば直接話を聴いてしまった方が早いかもしれないと考え、参院選後初めて中医協総会が開かれた7月14日の総会会場で鈴木常任理事を捕まえました。
「疑義解釈委員会のことを教えていただきたいんですけど」と問いかけると、鈴木氏は「ああ」と頷いた後で「取材申し込みを日医にして」と言いました。既に一度取材申し込みしていることは知らないようでした。何はともあれ、早速「鈴木常任理事は取材了解済」と記し、改めて取材申し込みのファクスを送りました。
非公式だが実質決定
ところが、待てど暮らせど取材日程の連絡が来ません。2週間経ち、再び中医協総会の開かれる日になりました。仕方ないので、また総会会場で鈴木常任理事を捕まえると、「ああ、あれ、何だか話したらいけないみたいで、課長も来ているから、ほら」と傍聴席まで足早に歩いていき、「疑義解釈委員会の話って、話せないんだよね」と最前列の男性に話しかけました。男性が「そうですね」と応じると、鈴木氏は「じゃあ、そういうことで」と去ってしまいました。
男性は、日医の上原丈林・保険医療課課長でした。常任理事がOKしても事務方がダメと言えば答えられないんだなと思いながら、なぜ話せないのか尋ねてみました。
「新しい薬や機器についてどう考えるかと、保険局長から学術団体である日本医師会が諮問を受けて、日医内部の委員会で各学会の専門家たちが非公開に話し合っているもので、誰が入っているかとか、どういう意見を言ったとか一切言えません。歴史的にオープンにしてきてませんから。もうずっと前から、武見太郎(元日医会長)のころからやっていますよ」
なんと、法的根拠は何もないにもかかわらず、一民間団体に過ぎない日本医師会内部の非公開の委員会で、新機能区分を認めるか否かなどの実質的な判断が下されていたのでした。政権交代までは、中医協の中に日医の代表者が入っていて発言力も大きかったため、この委員会の決定に従わないと中医協を通せない可能性があったようです。だからといって厚労省が一方的被害者ということではなく、学会の意見を集約する手間が省けて便利という面もありました。しかし、これでは「不透明な狎れ合い」と言われても仕方ありません。
さて、政治主導を掲げ、さらに医療を成長産業に位置づける民主党政権は、どうするつもりでしょうか。