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今、あえて問う 医療は危険か安全か。

どうすれば ミスを防げるの?

 患者からすれば、「医療で健康を損なう」ほど腹立たしいことはないはずです。特に、それが人為ミスに起因するものであれば、許しがたく感じるでしょう。
 しかし、交通事故がなくならないのと同様、医療事故・医療過誤もなくなることはあり得ません。それは、人間というものが、本質的にミスをするものだからです。
 といっても、医療機関が開き直るわけにいかないので、事故・過誤をいかに防ぐか、どこでも知恵を絞っています。このような事故防止の考え方や取り組みのことを、「医療安全」と言います。  医療安全を考える前提は、「ミスしないよう気をつける」ではなく、「ミスできないようなシステムにする」になります。この世の中に間違いを犯さない人間は存在しないので、「ミスをするな」という精神論では解決策にならないのです。
 ミスを防ぐ最も確実な方法は何もしないことです。ただし何もしなければ医療の意味がありませんので、逆説的な言い方をすれば、「何もせずに医療行為を行う」という禅問答が一つの目標になります。つまり何かをする際、個人個人に「極力、何もさせない」、つまりミスする余地となるような裁量を与えなければよいだろうという発想です。
 さらに、人間が必ずミスをするという前提に立つと、ミスが患者に実害を与える前にチェック関門を多く設ければよいだろうというのも、すぐに浮かぶ考えです。
 この発想から生まれてくるのは、自動化、そして複数チェックのマニュアル化です。
 投薬を例に取れば、薬剤部で1人は処方箋を読み上げ、別の1人は薬剤についている名称を読み上げ、さらにバーコードでも照合する。病棟での投与前にも、2人の看護師で同じことを繰り返す、といったように、あらゆる医療行為に関して機械的かつ複数でチェックするよう、手順を定めるわけです。
 身の周りの医療従事者が妙に杓子定規な対応をすることに腹が立っても、こういう背景があるのだ、と理解してあげてください。
 もちろん、マニュアルだけですべてが解決するはずもありません。一人として同じ人間が存在しない以上、マニュアル化できないものは確実に残りますし、マニュアルがあってもミスする可能性はゼロでありません。患者が医療に求める人間味とマニュアルと整合性が取れるのかも議論があるところでしょう。
 さらに現実問題として、考えうる防止策を全部マニュアル化するような医療機関は皆無のはず。どうしても穴ができます。
 穴ができる理由は、医療とはそもそも何ぞやということを考えた場合、事故防止は所詮二次的な価値でしかないからです。つまり、患者が望んでいるのは、一義的には有効な治療であり、治療によって被害を受けないことだけを望むなら、そもそも医療など受けなければよいのです。
 サッカーに例えると、敵のゴールへ向かってボールをシュートするのが最終目標として、事故防止は自陣ゴール前を固めるようなもの。フィールドに入る選手の総数が増えない限り、自陣に割ける人数にも限りがあります。
 近年は医療費抑制の流れが続いています。ただでさえ、現場は人手が足りないことが多いのです。その限られた人数の中で、現実的にできる工夫を極力システマティックに行う、というのが医療機関にできる限界になります。
 医療機関側の努力だけに頼っていては、事故は決してなくなりません。

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