医療事故調検討会14
3月以来なので流れを忘れてしまった方
初めて見る方もいることだろう。
過去の模様は、こちら をご覧いただきたい。
さて実は、これまでやってきたような逐一報告をする必要があるか悩んでいる。
先日も書いたしCBニュースにも出ていた通り
なぜ、この検討会を今開かなければならないのか、もともと意味が分からなかった。
傍聴してみて、ますます、その感を強くした。
先に概要だけ述べておくと
パブコメの内容がある程度集約され、それへの厚労省の見解が説明された。
で、
今後は法案大綱に反対している人たちを呼んでヒアリングするというのだけれど
法案大綱ができているということは自民党とは話がついているのであり
もう政治のステージに移った話のはずだ。
自民党が戻したのでない限り、検討会で何を議論しようが法案には反映されない。
(民主党が選挙で勝てば、ご破算で最初からやり直し)
ということはヒアリングとは言うものの
反対派の意見も聞いたというアリバイづくりにしかならない。
そんなの真面目に採り上げて論評する価値があるもんだろうか。
こっちだってクソ忙しいのに。
百歩譲って中身が面白かったならまだしも
今年度になってから、ビジョン会議系の
「自分たちでやるぜ」という建設的な検討会の傍聴が多かったので
久々に旧来型の「事務局の筋書き通りに言ってみるだけ、あとは事務局よろしく」という
進行を見て、その余りの眠たさにどんよりした気分になった。
気乗りしないけれど、溜めといても仕方ないので、さらっといこう。(敬称略)
ちなみに看護協会選出の委員が交代、でも欠席。
他に、鮎澤、加藤、堺、辻本の4人が欠席、南が遅刻。
そりゃそうだよね、これだけ意味のない会議だったら皆さん出たくないよね。
前田座長
「パブコメの主な意見とそれに対する厚生労働省の現時点での考え方を事務局に準備してもらった。それを踏まえて、今後この会議をどう進めるか、議論したい。まずはご説明を」
ということで
佐原医療安全推進室長が30分ほど説明。
前田
「何かご質問ご意見があれば」
誰も何も言わず。
前田
「気づいたことなら何でも結構」
高本
「今後は行政処分が大きな意味を持ってくる。ここには医道審の意見を聴いたうえで厚生労働省が処分をくだすと書いてあるが、曖昧だ。再教育中心のものにしないと、調査委員会の方も十分にファンクションしない、委員会の機能が半減する。今の医道審では、お話にならない。しっかり見直してほしい」
杉野医事課長
「ご指摘の点は重要。現状は、刑事上の処分を受け、その内容を勘案しながら参考にしながら処分しているという実態。医療安全調査委員会ができた後は行政処分のルートや中身が大きく変わるのは当然。新しい委員会の仕組み・流れを前提に大幅に見直す必要があると考えている。具体的にはまだイメージできていないが、しかるべき時期にしかるべき方向でと考えている」
ここから先、時間が過去に戻ってしまったかと思うほど新味のない意見が続く。
世の中は激動しているのに、この検討会だけは時間の流れが違う。
山口
「医療者の多くの関心は、委員会への届け出が捜査当局へつながるのでないかということ。届け出範囲にはガイドライン案がある。通知される標準的医療からの逸脱というのがどの程度のことを指すのか、専門家の中でも意見が違うし、状況によっても違うだろう。ほとんどの医療者は一生懸命まじめにやっているのであって、刑事責任を問われなければいかんものはわずかだと思う。しかし、それが例えば地域によって基準が違うのでは具合が悪い。通知の基準づくりはどうか」
佐原
「届け出後も学術専門団体の落ちからをお借りするので、出口の判断も役所だけでは決められない。アドバイスをいただければ」
前田
「今でも刑事で扱われている数少ない例でも、鑑定までいくかは別にして医師の判断を参考にしている。入口とは違って、委員会に法の人間が入るとは言っても、基本は医療の側の判断だ」
木下
「医療界の方々に説明に歩いていると、『重大な過失』の意味が曖昧でよく分からないと言われるのだが、司法界の先生方にお話を伺うと故意に準じるくらいの重大なものということでハッキリと定義されているという。大綱案になって、標準的な医療からの逸脱という表現になったのだけれど、かえって何をもって逸脱というのか、で、また大騒ぎになっている。司法界で重大な過失というのが当たり前の表現ならば、著しく逸脱と表現するのが果たしていいのか、むしろ重大な過失と表現した方が意味が狭まると説明すると分かってもらえる面もある。表現についても、もう一回検討してもらえれば」
前田
「大綱案になって表現が変わった理由は?」
佐原
「重大な過失の重大とは、標準からの逸脱の程度が著しいということで、第三次試案も大綱案もほぼ同じ意味。また、この判断は法的なものではなく、医学的なものということで、重大な過失とすると法的なものになるけれど、あくまでも医学で考えるなら標準からの逸脱であろうということで表現を変えた。どうしたらよいか色々なご意見を伺いながら検討したい」
木下
「もちろん経過は承知している。しかし、標準からの逸脱といった場合に、司法界の人たちからすると新しい概念になってしまって、必ずしも重大な過失とイコールになるのか。故意に準ずるようなヒドイ過失なんだと言っても、またその際に両方のサイドで混乱するのでないか。むしろ刑法の中で使われていた言葉を使った方がよいのでないか。ぜひ、もう一度検討していただきたい」
前田
「この点はそんなに差はない。範囲を動かすために言葉を換えたわけではなく、大野病院の胎盤剥離が標準的医療を逸脱したかというようなことで、重大かどうかというのは程度の問題なので標準からの距離になる」
法務省
「重大な過失も標準からの逸脱も射程という意味では大きな違いはないと思う。しかしながら、もし法文の中に重大な過失と書くと、法律家の側は混乱するかもしれない。重大な過失というのには、判例によって積み重ねがある。だから行為に対してその積み重ねを当てはめて、重大な過失に相当するだろうと裁判所の判断を前どりする形で立件し、裁判所の判断を仰ぐということになるなら、それで構わないが、そうではなく現場の判断に資する使い易さの点では、そちらの表現の方がよいのでないか。伺ってみると、そもそもとんでもない標準からの逸脱もそんあにあるもんではなかろう。重大な過失の方が入口が狭まるということはないと思う」
警察庁
「言われた通りで、中身もほとんど変わらないが、どちらがふさわしいかと言えば、この書きぶりの方がよろしいのでは」
かわいそうな位、ケチョンケチョンである。
木下委員、半年考えた挙げ句に、こんなことが最重要と思ったのだろうか。
樋口
「また、まとまらない話で長くなる。たくさんのパブコメに対して、厚生労働省の側でも一つ一つ答えたことに感銘を受けている。これまでも様々なパブコメ募集が行われてきたけれど、ではパブコメを取ったからといって何か方針が変わったことがあったかといえば、そんなことはない。今回これだけ真摯に対応したのは、いいことなんでないか。
それを前提として、そのうえでなんだが、今回の委員の発言もパブコメの意見も大きく言えばシステムの話。残念ながら医療事故が起きてしまった、その後でどうするか、大きく分けて2つある。1つが過去を向いてお前一体何をしたんだということを追及し制裁を加える責任追及の型。その際に最も頼りになるのは警察や検察の刑事司法。そうやって責任追及することで同じような事故が繰り返されるのを防ぐ抑止効果があるのなら、それもまた未来を向いた話になるのかもしれないが、現実には必ずしもそうではないばかりか、むしろ思わしくないことが起きている。そこで、もう一つ新しい将来型として、責任追及でない形で再発防止につなげる方法を探れないかという話になる。
将来型には2つの大きな問題があって、まずは今まで非常に刑事司法に寄りかかって甘えて負担をかけていた分をそうではなく自分たちでやるという方向に舵を切ること、これが第一段階。本当に大事なのは第二段階で、ではどんな調査をすればいいか、どんな人たちが関与して、どういう風に調査すれば再発防止につながるか考えること。残念ながら、これに関しては諸外国にも前例がないようなので、日本が先陣を切ってやることであり、なかなか難しいのは事実であるが、しかしそこに挑戦しなければならない。ところが残念ながら、パブコメの意見にしても第二段階まで踏み込んだものはわずかで、ほとんどのものが第一段階に留まっている。
それは業界の中に、第一段階での疑いが残っているから。残っても仕方ない現状はあるのかもしれないが、しかしそこん所ばかりで議論が行きつ戻りつして、第二段階が忘れられているのは残念だ。責任追及は刑事、行政処分、民事の3種類あり、3つをどういう形で当てはめていくか工夫が求められる。刑事は具体的に限るという話はさんざんこの検討会でもされているし、オブザーバーの警察や法務省からもそのように言っていただいている。ところが文言の形になると曖昧にならざるを得ない。そもそも具体的になりようがないのだとは思うが、そこが疑いを持たれる原因になっている以上、できる限り明確にするよう努力する必要はあると思う。
そこで法文として書き込むのがどうなのかは分からないが、ちょうどこの8月に大野病院事件の判決が出て、裁判所が一つのルールを示してくれた。著しく標準的医療から逸脱するとは、こういうことだと。確定はしたものの地裁判決であって、ではあるが具体的な事件で基準が示された。これは分かりやすいと思う。
先ほど法務省から助け船が出されたけれど、医療的判断という以上、法律にこだわるのは本末転倒であると助言をいただいたんだと思う。その通りだと思う。刑事については、ほとんどの医師がやっていること、これをやり続けたら死んでしまうという症例数があるとの高いハードルが示された。このことを例えば、判決を注で出していただけると、責任追及でない別の仕組みでがんばろうという気運が盛り上がるのでないか。
行政処分についても、個人の責任を追及するのでなくシステムに着目し、もし個人に反省すべき点があるなら再教育に重点を置いて再出発を促すんだと、随分説明があった。しかしこれが大綱案だけ見ると、医療法の中にチームや施設を処分するという新しい行政処分が加わっただけで、個人向けの処分が謙抑的になるんだということは形のうえでは出てきていない。公の場で繰り返し説明をされているから、私はそのことについて厚生労働省を信じないわけじゃないが、行政処分の規定の条文の中にそのことを入れるのかどうなのか。
いずれにしても現実の方が大事なんであり、どうやったらいい調査がやれるんだろうということに、もっと関心が集まるようにしたい」
今回の検討会の中で、この発言だけは傾聴に値したと思う。
が、発言途中に退席した傍聴者がいた。
誰かと思ったら、大野病院事件のご遺族の渡辺さんだった。
最近よく東京でお見かけする。
それはそれとして、樋口委員の意見に真摯に対応すれば、法案を書き直さざるを得ない。
座長が慌てて打ち消しに入る。
前田
「大野病院は地裁判決なので、あの判断が間違っているということではないけれど、最高裁判決でなければ法律家は判例と呼ばないので、法律家としてはあまり重視できない。一つの判決だけで、厚生労働省の方に書き込んじゃうとまずい」
児玉
「この検討会は、医と法の交差点として、社会にメッセージを出していくのは大切な役割だ。議事録としてオーラルコンポジションだけで済ましてはいけないのでないか。医療関係者が心配しているのが過失であり重過失であり大野病院事件だ。そう考えて行くと、今目の前に3つの言葉がある。まず第三次試案の中で法務省・警察庁と合意された内容として『重大な過失』という言葉が出てくる。それから前田先生の教科書にも出てくる『重過失』という言葉。最後に大野病院事件判決で出てきた『刑罰を科す基準となり得る医学的準則』。これら3つの言葉をどういう風に説明するかが課題。それぞれの目的から見直して、法律家が分かりやすく解説する必要がある。
これは解釈論ではなく実務論であり、立法政策として、どういう基準で警察への通知を行うかということ。そして、それを受け止める側の医師が、どう受け止めるかの問題もある。明快に噛み砕いてメッセージを出していく必要がある。この問題に関して、ある医療者の方にお会いしたら、自分たちがこの委員会に反対していると言われるのは心外だ、心配しているだけだ、と言っていた」
申し訳ないが、かなり簡略化して記した。
朗々と長々と述べたけれど、「だから何?」と言いたくなる。
委員たちが、自分が何かしなければいけなくなるのを避けるためだろうか
評論家的に煙幕を張ったような漠然とした話し方をするので、どうしても突っ込みを入れたくなる。
前田
「まさに立法論と政策論とを分けなければならない。教科書なんかに載っているのは解釈論。とはいえ、ほとんど重なっているんだろう。大野病院事件のことに関して言うと、最高裁のもの以外判例とは言わない。しかし、これだけ世の中に注目され評価されているものが影響を与えないわけもない。医療の側に心配があるのだとすれば、これだけのものがあるのだから分かりやすく示していかなければならない。
とはいえ片一方で医師には重過失だけしか問わないと言ってしまうと法解釈を誤ることになると思う。それ以外の人たちは重過失でなくとも裁かれている。医師だけに特別枠をつくるということになれば、そこには国民の合意形成が必要だ。大方の合意はできているけれど法制度として国民の合意を得るには至っていないだろう。正直、この検討会ではパブコメを非常に丁寧にやっているし、会議の数もたくさんやっている。理解を得るのに努力が足りないのはその通りだが、何が心配なのか、医療界の意見を直接聴きたい。新聞論調などを見ても国民全体は我々を支持してくださっている。しかし医療界は心配だという。そこを黙って従えというのでなく、医療側にも患者側にも納得いただけるよう、ご意見を聴きたい」
疲れるので、もう突っ込まない。
先生の目には世の中がそう見えているのですか、そうですか、と思うだけだ。
山本
「民事の観点から一言。地方委員会の報告書が民事裁判の証拠として採用されないことにすべきというパブコメに対して、厚生労働省が、利用されれば早期の紛争解決に役立つと回答されている。全く賛成だ。多くの紛争は、そのような形で早期に解決されるであろう。たとえ解決せず裁判になったとしても、現状迅速化、適正化してきてはいるが、なお医療訴訟での裁判所の判断は医療側から見て不備な点が多く、上級審で覆される事例もある。地方委員会が早期に一定の報告書を出すことになれば、たとえ将来裁判になったとしても適正な判断を期待できる。
またADRの活用を主張するパブコメもだいぶあったが、よかったのでないか。裁判は過去に目を向けた争いであり、ADRは将来へ目を向けたものだ。ただし、同じADRという言葉を使っていても、論じる方によってイメージはかなり違う。コンセンサスを得る必要はないにしても、どのようなADRの形が望ましいか議論・検討する必要がある」
他愛もない発言のようで、しかし他に発言する人のない所だから、お墨付きになりかねない。
こういう文脈の中で唐突に出てきたということ、1人しか発言してないことは記憶に留めておきたい。
豊田
「私自身は病院の中で医療安全の担当者をしており、部外の人の相談には乗っていないのだが、毎日のように外部の人から相談が来る。病院がきちんと対応できていないために傷ついて病院を信用できないと思ってしまっている。大野病院事件でもご遺族のお話を伺うと、外部の評価というのは一部の情報だけで判断せざるを得ないので、刑事に問うべきかどうなのかは別にして、私たちが見たあの日の状況と違うとかそういうことになってしまう。だから真相解明していただく機関を早くつくってほしい。一部の医師が反対しているようだけれど、その気持ちも分からなくはないが、遺族としては今のままでは分かりあうのが難しいと思う。法で追及しようということでスタートしている遺族はいない。最初の段階で誠実に対応してもらえないことによって病院を信じられなくなっている。まず誠実に対応することに気持ちを集中していただきたい。行政処分についても、個人の責任追及よりも反省を形にするということで再教育するシステムにしてほしい。それなのに最初の段階で反対しているので、その人たちの意見もしっかり聴いて受け止めたうえで考えたい。ぜひご意見を伺いたい」
20分ぐらい時間が残っていたのだが、座長はミッションを果たしたらしい。
まだ南委員が何も話していないのに、収束にかかる。
前田
「それでは皆さんよろしいか」
と、高本委員が手を上げ
「WHOのガイドライン案を根拠に、医療安全調が警察に通知するのは反するんでないかという主張が多い。そこで調べてみた。05年にドラフトが出ているのだが、オリジナルではなく、02年のニューイングランドジャーナルに載った論文が元になっていて、さらにそれは02年のナショナル・クオリティ・フォーラムという集まりのナショナル・クオリティ・コンセンサス・リポートということで座長のカイザーさんという人が発表している。つまりWHOのは孫引きである。カイザーさんのオリジナルを読むと、違法なことは司法に通知すると書いてある。全く処罰しないというものではない。医療安全調査委員会も似たようなもので警察へ通知する仕組みがあってもおかしくない」
警察庁
「2点。委員会ができたならば、その専門的知見を尊重した運用になる。ただし、その委員会は、中立性、公平性、公明性が明らかである必要がある。二つ目、委員会には迅速性が求められる。それが可能になるために事務局も含めた体制構築をお願いしたい」
前田
「今後の議論の進め方についてご意見を」
樋口
「座長や豊田委員の言われたように、反対する人たちの肉声を聴く機会もあった方がよいのでないか。医療者であれ患者であれ」
前田
「ご異存なければ、そのような方向で。事務局にまた負担をお願いすることになるがよろしくお願いする」
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