医療事故調検討会15
今日という今日は言わせてもらうぜ
こんなタンカが聞こえるような検討会だった。
皆さん大注目の『診療行為に関連した死亡に係る原因究明等の在り方に関する検討会』も、ついに15回目まで来てしまった。今回の会場は四谷の弘済会館。前回までの議論は、こちら から。委員はこちら。これまで大抵時間通りに終っていたのだけれど、今回は樋口委員すら一言も発言しなかったのに大変に長引いた。
それもこれも、参考人が「ケツをまくった」から。
この破天荒さをどこまでお伝えできるか自信ないが
頑張ってコツコツ書いてみる。
この日は、パブコメで第三次試案や大綱案に懸念を表明していた団体の方々から直接ヒアリングしようという趣旨とのことで
・日本麻酔科学会 並木 昭義 理事長(札幌医科大学教授)
・日本産科婦人科学会 岡井 崇 常務理事(昭和大学医学部教授)
・日本救急医学会 堤 晴彦 理事(埼玉医科大学総合医療センター教授)
の3人を参考人として呼んだ。
3人が一通り意見を述べた後で質疑応答という流れ。
3人が話す前、冒頭に加藤委員が日弁連の基調報告書の中に含まれる院内事故調査委員会設置の際のガイドラインと『安全で質の高い医療を受ける権利に関する宣言』というものについて説明して、「国に対して、院内に公正で自律的な事故調査委員会が設置させるための施策を取ることと、医師や患者の立場を代表する者、法律家などで構成される第三者機関を設置するよう日弁連として宣言したもので、今日舛添厚生労働大臣にお会いしてご説明して要望してきたところだ。大臣は第三者機関については大事だという認識だったので今後進めていくんだろうと受け止めた」と述べ、本日のプログラムがスタート。
最初の陳述は並木理事長。
麻酔科学会資料
ほぼ、この資料を読み上げたので、最後に付け加えた一段落だけ記す。
「医療不信を招いたのは、医療者側の専門家としての自律性の欠如によるものと反省している。今後は有識者や国民のご協力をいただきながら安全と質の確保に努力する所存だ」
続いて岡井常務理事
産科婦人科学会資料
「大綱案に関する話をする前に麻酔科学会からも話があった刑事訴追の問題について話したい。ここが医療提供側にとって一番重視しているところなので、先に資料の後ろの方の見解について述べたい。最初の段落は書いてあるままその通りのことであって、医療提供側の多くの方が賛成してくれると思う。しかし医療を受ける側、国民からは、どうして医療だけが刑事訴追の対象から外されるのかという声も出ている。それに対して、我々がどうしてそのようなことを言うか、少々理屈っぽいが理由を書き挙げているので説明させていただく。
まず(1)。よく同じ業務上過失ということで交通事故と対比されることが多いけれど、交通事故とは本質的に違っている。次に(2)。医療事故が起きた場合、必ず過失があったかなかったが問われる。しかし、これは多くの場合は診療能力の問題であると我々は考えている。もちろん能力の低い者は、その能力を向上させるべく教育を受けるべきであり放置しても良いとは言っていない。(3)は、ほとんどの医療者が使命感を持って善意でやっているんだということ、そこに刑事罰を持ち込んでも結局は医療者の使命感を喪失させるだけで医療の向上に資するものは全くない。(4)誰でもミスはする。しかし医療の場合はミスがそのまま人の死につながる。それだけ大きな負荷を負っている。以上のことから、たとえ単純ミスであっても刑事訴追すべきでないと考える。
この見解は第二次試案に合わせて書かれたものだったが、今も変わらずその考えは維持されているし、将来も持ちつづけるつもりだ。とはいえ現実問題として刑法211条を医療免責のように改正するのは難しかろう。そこが直らなければ、事故調の案に反対するというものではない。そこまで行くのが望ましいが、しかし現在は医師法21条の拡大解釈で現場が混乱しているのであり、それは一日も早く正常化していただきたいし、医療事故調の作業を早くやるべきだと考えている。211条の改正を待っているわけにはいかないので、それで大綱案に対する意見になる。
大綱案に関して、基本的に第三次試案と変わっていないだろうと考えている。まず警察への通知事例について、私たちはここを完全にブロックするのは、かえって良くないと考えている。もちろん完全に切り離せという主張をする人もいるが、業務上過失が存在する前提だと、事故があった時、家族から訴えがあった時に警察は動くし動かざるを得ないことになる。警察が動くと、医療者が使命感を持ってやったことに対して被疑者のような扱いを受けることになって、私の後輩でも取り調べを受けて、もう医者を辞めたいと言っているのがいる。だからパイプは通していた方がいい。もちろん刑事罰と別のペナルティということを譲るわけではない。標準的な医療からの逸脱という通知の定義は何とかしてほしい。というのは、薬の間違えというのは単純ミスとしてあるのだが、あれを標準医療から逸脱していないとは言えないから、通知しないでと言えなくなる。通知されたら取り調べられることになる。やはり悪質だということが判断できるような文言に変えてほしい。
調査委員会の管轄については麻酔科学会と同じ。届け出対象事例については、過失の有無を判断するという視点で入っている。しかし再発防止や医療の向上に資するということなら、明らかな合併症であっても重要なものは報告するということがあっていい。最後に捜査機関の対応については、パイプはあっても、それだけでなく事故調の調査を優先させると明文化されていないと警察が独自に動く可能性が残ってしまう。その辺は条文にしっかり書いていただきたい」
はて穏当な発言ばかりだが、と思ったでしょうか。
さあ、いよいよここからです。
救急医学会資料1
救急医学会資料2
堤
「遅刻して申し訳ない。霞ヶ関で開催されると思っていた。開催要項を確認していなかったので、これは重大な注意義務違反であろう。さて、発言の機会をいただき、感謝する。できれば、もっと早い時に呼んでいただきたかった。学会としての見解は資料として出してあるので、既にお読みいただいているという前提で話をする。
大綱案について、我々は反対派で、賛成派との間で医学界も割れて対立構造ができているように言われているがそんなことはない。この検討会にも高本先生、木下先生、山口先生が医療界の代表として参加されていて、過去の議事録を全部読んだけれど、医療界の意見を十分に伝えていただいていると思う。感謝したい。じゃあ、なぜ最終的に結論が違うんだという話になるのだけれど、賛成派の方々は性善説で反対派は性悪説で考えている、この違いだと思う。大綱案で、この検討会で話されていたような精神通りに行くと考えれば賛成になるし、法律や組織がいったんできてしまえばどのように運用されるか分かったもんじゃないと考えれば反対になる。私も後者であり、だから反対派ではなく慎重派である。1年以上も議論している、これだけの検討会で持ち時間がたったの15分というのは寂しいのだが5点に絞って述べさせていただく。資料はない。資料と同じことを喋っても面白くなかろう。
一つ。死因究明と責任追及は切り離すべきだ。これは救急医学会として譲れない一線だ。それは医療安全追求と紛争解決の違いであり、この話は、1回目の時からずっと議論されているはずだ。それを曖昧なまま明確にしなかったばかりに、ずっと混乱している。これがどれ位おかしなことか、警察の捜査に例えてみよう。捜査ミスがあって犯罪の検挙に失敗したとしよう。内部では何が悪かったのかの反省が行われているだろう。だからといって、その反省の中身を文書にして被害者の遺族に示しているか、その会議に第三者の委員を入れて検討しているか。捜査をより良いものにするのと責任追及とは違うプロセスのものだということは、警察や検察も分かっているのでないか。なぜ医療だけが原因究明と責任追及を同時にできることになるのか。もし、その考えが正しいのであれば、警察も第三者評価を行うべきだ、捜査調査委員会をつくるべきだ。
大綱案に反対の医師の中には、医療は免責にしろという人もいる。しかし我々はそのような立場は取らない。悪いものは悪いという立場だ。自民党のある代議士が、救急医療は免責と言ったけれど、我々はそんなことを話し合ったことは一度もないし、その代議士の案にも乗っていない。もちろん救急のことを心配して言ってくれたんだろうから気持ちは嬉しく受け止めるが、しかし免責を求めるつもりはない。
問題は、医療の場合、何が業務上過失になるかが分からないこと。そこに不安や怒りを覚えており、その結果として、防衛医療、萎縮医療が加速していることは間違いない。悪質とか標準から著しく逸脱とか実に曖昧だ。本邦の救急は、救急専門医ではなく一般の医師がほとんど支えている。そうすると専門外の患者を診ることが当たり前だ。このような医師たちによって、かろうじて救急体制が支えられている。その処置は、各科の専門医から見れば逸脱もあるだろう。しかし、それが罪に問われるのならば、間違いなく日本の救急医療は崩壊する。断っておくが、救急専門医の責任を免れようとしているわけではない。そうではなく、非専門医に委ねられている現状があり、これらの医師に関与し続けてもらうために我々は主張している。何が業務上過失なのか、むしろ真っ正面から取り組むべきでないか。よく業務上過失で対比される交通事故には明確な基準がある。前田座長に質問したいが、今の医療に対する適用は罪刑法定主義に反するんじゃないか。医療の何が罪になるか、検察だって実はプロジェクトチームを作って検討しているはずだ。何が業務上過失になるのか明確にしてほしい、そうでなければ現場からは納得が得られない。このことを厚生労働省と法曹界に強く要望したい。ちなみに救急医学会は別紙のように『明白な過失』という概念を考えて議論している。法律家から見れば穴だらけかもしれないが、しかし一方で法曹界だけでも、こういうことは定義できないはずだ。なぜならば法曹界は医学は調べられても医療の実際は知らないからだ。警察、検察と医療界とで同じ席について議論すべきだ。対立ではなく対話を求める。そのための場の設定を強く厚生労働省にお願いしたい。ここをきちんとせずに事故調を作っても機能しない。
従来は法的判断が先にあって、その結果として医療の判断が甘くなるということだった。だから医療を先にするんだというけれど、だったら今度は法的判断が甘くならないか。警察へ通知しない中に法的に問題のある事例が埋もれてしまうことになる。それで国民が良いというのか。これを回避するには、全例を通知するしかないんではないか。目的も責任追及にすればハッキリする。刑法学者が座長なんだから議論も早い。ただし、その場合は厚生労働省の枠内では議論できない。医師が警察官と同じように捜査できるはずがない。だったら、どちらが先ではなくて両方並行して同時に行うことこそが公正なのでないか。
次に報告書自体の問題。医療側が捜査機関を批判する時に真っ先に挙げる大野病院事件だが、本当に捜査機関が悪いのか。あれは元はと言えば、医師の作成した県報告書が捜査のきっかけになっている。事故調と同じ流れだ。それを用いて捜査したんだし、もっと言えば医師の書いた鑑定書に拠って動いたはずだ。警察検察からすれば医療側に対して言いたいことは山ほどあるだろう。それを何も言わないところは実に大人の対応で感服する。世間的には医師と捜査機関が対立したと言われたけれど、本質的には報告書の問題であり、作った医師の資質の問題だ。本当に公正中立な報告書を書けるのか、それだけの資質を持った医師が何人いるのか、そもそも本当に中立な人はいるのか。それぞれに立場があるんだから完全な中立なんてことは幻想でないのか。報告書の在り方について、もっと議論が必要だ。
せっかくモデル事業をやっている。あと2年残っているらしい。まず、その検証を先にやるべきなんでないか。問題点はいくらでも挙げられるだろう。座長は、モデル事業の発展形が医療事故調だと言っているが、検証なしに新しい組織を作るなんてどう考えてもおかしいだろう。モデル事業に関わった方々は、もの凄い苦労をしたと聴いている。その経験を踏まえれば、自ずから事故調が扱える件数だって見えてくるはずだ。
事故調の地方委員会の調査委員、その選任方法が明記されていない。となると賛成の医療界の人たちは自分たちの都合のよい委員を出すつもりでいるし、一方で患者遺族の側は自分たちを代弁してくれるような人を出そうとするだろう。両方、案に賛成しているけれど、同床異夢だ。分かるか。中立というのを、どう手続きで担保していくのか検討しとかないといけない。
警察、検察はオブザーバーとして参加しているが、警察はどう見ても医療事故以外のことを扱うのでいっぱいいっぱいだろう。検察も無罪ばかり連発しては困るから、事故調が報告書を作ってくれることを期待しているだろう。いわば高みの見物だ。事故調が何を言おうが、使うものは使うと考えているだろう。しょせん鑑定書のひとつに過ぎない。患者側の弁護士にとっても非常においしい話だ。結局、反対派が少数に見えるとしたら、私は少数だとは思わないが、こういう得をする勢力がモノを言わないから反対も少ないということだと思う。
杏林大学のわりばし事件というのがあった。あれそのものの判断はしない。しかし、あの患者を断った医療機関がいくつもある。しかし断った所は何もお咎めなしで、受け入れた所が叩かれている。法は善意を考慮しない。これらの問題を解決しない限り、患者を診ない方が安全という現場の萎縮はどんどん進んで行く。本当にこれで国民は納得するのか。医療の刑事裁判に関わった人は皆傷ついている。医療者も患者遺族も。都立広尾病院の永井さんのお話などは胸打たれる。医と法とが踏み込んで歩み寄って議論して、よりよい事故調論議ができることを祈っている。ある国会議員が、事故調は医師の8割、患者の8割が納得しなければ機能しないと言っていたが、まさにその通りだと思う。
刑事事件と民事事件。民事事件について議論が不十分だ。報告書が民事で使われるのは明らか。国の機関でありながら民事不介入に反する。根本的に考え直すべきだ。警察が交通事故の捜査報告書を被害者に渡すことはない。警察は民事不介入だからだ。国、行政の組織でありながら民事に関与する。被害者のため報告するのが当然という論理が正しいのならば、警察も交通事故や犯罪の捜査報告書を被害者に渡すべきことになる。医療事故だけ出すというのは論理が一貫していない。
以上述べてきたこと、これらの解決のために法と医の対話の場を設定すべきである。モデル事業の検証も必要だし、また監察医や法医学者などのインフラ整備も進めなければならない。この検討会は1回2時間で1年間やっているが、全く扱うべき内容に対応できていない。医学界なら、こういう時はワーキンググループに小分けして徹底的に議論させる。そういう方法を取らなかったのが失敗だったと思う。いずれにしても、これは国家的問題だからわが国のリーダーたる医療、行政、法曹の代表たちが一つ席について大所高所から議論して、よき医療事故調ができることを望んでいる。
最後に、医療界に課された医療安全向上に関して逃げるつもりは毛頭ない。我々の責任として積極的に取り組む」
前田
「鋭いご指摘をたくさんいただいたが、何かご質問があれば」
加藤
「並木先生の最後に、自浄作用を高めてという言葉があったが、どういう意味合いか具体的にお聞かせいただければ」
並木
「我々の現場でも反省すべき点はたくさんある。学会の中で話し合って、安全や質の確保に関して現状に甘えるのでなく医者だからというのでなく、しっかり取り組もうということになった。そうしないと、一般国民からの我々への信頼感がなくなる」
加藤
「堤参考人の話で、地方調査委員会の委員をどうするのか、公正中立な報告書を書けるのかという問いかけがあった。これについては同僚評価ピアレビューがきちっとなされる土壌があるかということになると思うのだが、現状はいかがか、お三方に伺いたい」
並木
「鑑定を頼まれることは非常に多くあるけれど、喜んで受ける人は少ない。だから鑑定してくれる人を見つけるのが大変。で学会に話が来るのだけれど、その分野に関する知識を持っている人じゃないとできないので、我々もそういう人を探すことになる。それぞれの地域ごとに、どういう人なのか学問領域、医師として、人間としてという所を絶えず日常の業務を通じて評価している。また学会としても、事例の収集分析に関与してかなきゃならんと思う。本当は再発防止につながっていけばよいのだが、個人情報保護法があってやっても保険会社から正しい情報の入ってこないところが悩みだ。できたら、そういうデータを見せてもらえるような形にしてもらえればと思う。医師として逃げるような態度ではダメ」
岡井
「ピアレビューだけだったらできるし普通にやっている。でも、それが刑事の責任追及と関わってくるから簡単でなくなる。能力の不足や誤りを正していけるようなペナルティが課されるのなら受け入れられる。刑事だと、こりゃかわいそうだ、絶対に悪いわけじゃないしということに必ずなる。大前提の211条がある限り100%刑事と切り離すことはできないから、だからピアレビューが機能するためにも普通の事例は刑事に問わないということが必要。職業人として反省するということはやるべきだが、そのためにはそういう反省が刑事とは関係ないことにならないと」
辻本
「患者の立場としては話の内容についていくだけで精いっぱいの難しい内容だったが、医療提供側としては当然の意見なんだろうと拝聴した。ただ、私どもも電話相談などをしていると一時期に比べて医療不信がトーンダウンしているのを感じる。だから、まさに今こそピンチはチャンスでないかと思う。そこで伺いたいのは、皆さんだって患者や家族になることはあるだろう。患者側の被害感情に対して何が必要なのか。総論としては分かるのだが、具体的な何かがあるなら伺いたい」
並木
「院内の事故調査で現場の人間がいかに真剣に話を聴くか、そこにかかっていると思う。最近は皆さん真剣にやってきてるから、だから不信感が少なくなってるんだろう。現場がしっかりしたものにすると、かなり変わってくる。じっと話を聴いていると、聴くと分かれば、今度は患者さん側も話を聴いてくれるようになる。まず現場だ」
岡井
「家族の気持ちを理解して共感して話すということ、事実を正しく伝えるということ、反省や謝意を伝えるということ、大変当たり前のことになると思う。ただ、被害者に対してしなければならないことと、刑罰とは別の話で、それが刑罰につながっていると思えばやりづらくなるから切り離してほしいと言っている。ごめんなさいと言える環境作るためにそういうことが必要だ。民事と刑事とは別。極端なことを言えば民事は勝手にやってくれたらいい。刑事にかかったら犯罪者になってしまうわけで、素直に回答できない」
堤
「このパターンということはない。患者、家族は様々。繰り返し対話を続けるなかで相手が何を求めているのか見極めることになると思う。単純に謝ってほしい人もいるし、最初からお金を要求する人もいる、医療者が様々なのと全く同じように患者も様々。時代は何でもマニュアル化するのかもしれないが、マニュアルには最もなじまない。そういう意味では、事故調を作ったら当事者は丸投げになる。それは却ってよくない。私も医療過誤と思われる患者さんを20年診察したことがあるけれど20年間怒鳴られ続けた。でも、そこから逃げないで受けて立つ、それが必要なことで、事故調に届け出ればいいんだということになると、かえって患者家族との人間関係を崩すことにならないかと思う」
並木
「当事者どうしが話をすると感情的になって話がややこしくなることも多いので、そこは間に立つ医療コーディネーターが入ってきて客観的に判断してもらえるといい」
加藤
「医療安全調査委員会の制度ができたら丸投げという話が出たが、各医療機関は独自に院内事故調査委員会を設けるのだし、当事者が現場で向き合うことが大切だという趣旨で、この構想を議論してきたつもりだ。丸投げになるというのは一体何を根拠に言っているのか」
堤
「加藤先生は性善説で話をしている。私は、そうでない現場を数々見てきている。院内事故調査をやっても当事者が協力しないというようなことが現実にある。事故調の精神については、その通りだろう。しかし現場がその通りに動くとは限らない。むしろ、うまくいく根拠を教えていただきたい」
加藤
「では堤参考人は、院内で協力しない人がいた時に、どういう風にしたらきちっとしたものに変えていけるとお考えか」
堤
「周りの人間から情報を集めて確認をして、院内的にはペナルティだろう」
堺
「前回出席できなかったので、その時に言いたかったことも含めて。法律に関わっている方々、行政、医療者の方々にそれぞれお願いしたいことがある。法律家に対することは、いみじくも先ほど堤参考人が言われたこととほとんど同じ。法と医の対話をぜひ進めてほしい。ささやかな経験で法と医とが同じ席についた会議などをいくつか見て、医療者の常識が法律家にとっては全く常識でなかったり、法律家にとっては自明のことが医療者にとってはそうでないことをいくつも経験してきた。とても大事な話なので、ぜひ医と法の対話の場を設けてほしい。行政に対しては、院内事故調査体制整備を推進してほしい。院内の調査はあらゆる意味で非常に大事だ。しかしながら、設置するところが増えてきてはいるが、まだまだ全ての病院で実施されていないし、小さな医療機関では単独でやるのは無理だ。だからそこを行政に支えてやっていただきたい。医療に関しては3人の参考人に質問だ。事故調ができた時、できないかもしれないが、でも今日はたまたま医療の中でも特に忙しい領域の方々がお越しくださっているので伺いたい。事故調ができた時には協力するのか。学会としてじゃなくて、我々全員参加して協力するのかということ、医療者が自ら我々でやるんだというのを示していただけるのか」
並木
「麻酔科学会も近々公益法人になるので安全の向上に尽くすのは義務だと思っている。ただ全員にきちんと協力してもらうには、我々理事だけが分かっていても仕方ないので会員の疑問点をハッキリさせて明確にしないと。そのうえで広報、指導をしていく。積極的に協力していきたい」
岡井
「同じだ。全面的に協力する。ただし医師の中にも色々なのがいるので、こうやって見解を取りまとめるのだった大変で、だから1人や2人はイヤだというのが出てきて100%にはならないかもしれない。しかし多くの先生方は協力してくれるだろう。ただし、我々は意見を出しているので、それは前提になる」
堤
「順番に質問をしつつお答えしたい。先ほど堺委員が言われた法律家や行政に対するお願いは、我々もずっとお願いしてきたことだ。本当にするのか、本当にできるのか。私は無理なんじゃないかと思っている。今までも、法律家や行政のやり気があるのかないのか疑いたくなる場面が多くあった。院内事故調が大事、全く同感だ。では行政はそのためにいくらお金をつけているか。1人1入院あたり500円だ。平均在院日数が14日として1日あたり36円。それで何かあった時に外部委員を呼んでなんてことを本気でやれというのか。もうちょっと考えてほしい。協力できるのかできないのかという話、数字を挙げて考えてみよう。モデル事業からの類推で年に1000件調査するとして1調査に5人だと5000人。医師は25万人といっても診療所でないのは半分しかいない。できるとは思ってない。救急学会がどうするか、それはできる事故調がいかなるものかによって変わる。納得するものなら必死にやる。納得いかないものだったら、やる気なんか出るわけがない。現実には数年でパンクするだろう。パンクした時にどうなるか。医療側がやれやれというからやったのに、なぜやらないんだ、と、きっと責める、この辺の人たちは。(ノートを見ていたため、この辺がどの辺か不明)あれ、静かになっちゃった。先生方も間もなく引退なんだから、あまり気易くやるとかできるとか言わない方がよろしい」
前田
「救急が協力しないで動かないんだと思う。大きな溝があるように見えて、でも実は感情の問題であって、言っていることに、そんなに差はないんでないか。どちらから見るかの違い、いみじくも性善説と性悪説という話があったが、どちらから見るかで全く色が違ってしまうということなんだろう。通知の基準が不明確ということ、警察や検察との議論の内容が明示されていないというご意見もあったが、それについて他の方のご意見はいかがだろうか。私も少し時間をいただいて話をしたい」
堤
「参考人が出しゃばって申し訳ないが、私どもが呼ばれるのも最後だと思うので言わせてもらう。座長、仕切りで、溝が埋まった埋まったと毎回やっているけれど、それが13回(ママ)も続いてしまった原因だ。せっかく刑法学者が座長をしているのだから、医療事故の刑事責任をどうするのかキッチリ議論すれば良かったし、もし医療安全だというなら座長は医療の人間がするべきだった。座長、あなたの思うようにやったらいいのだ。毎回遠慮して、溝は埋まった埋まったとやっているからダメなんだ」
会場から大きな笑い声が挙がった。私も笑いそうになった。
前田
「それはやはり見方の違いだ。私は縮まったと思っているし、新聞なんかの評価もそうなっている。座長として刑法学者がし切っていて不満かもしれないが、しかし医療の側の意見もきちんと伺っている。もちろん私でなく医療側が座長でも構わないし同じ話になるはずだ。今日の話は、その辺の議論しているはずではないので私も一つだけ申し上げたい。
過失の限界が不明確というのは昔から論争のある話だし、医師の過誤を刑事に問うべきでないという意見も、211条が罪刑法定主義に反するというのも昔からある議論だ。ただ、過失行為であっても処罰せざるを得ない領域というのはあって、そこはだんだん固まって行く。下手だからとか、ちょっとしたミスだからというだけでは、国民から見てこれは処罰しないとということにはならない。薬の取り違えとかそういうのは処罰の対象にならない。しかし一例を挙げると前の晩に飲みすぎて、手術でミスをしたという時。故意ではない、しかし単純な過失でもない。我々の専門から見れば、医療に対する刑法の適用というのは他の分野に比べて随分とモデレートだ。罰金というのはハッキリ言って軽い。で罰金の割合が異様に多いし執行猶予もつく。それでも有罪は有罪だという気持ちは分かる。ただし被害者側の気持ちもある。そのバランスの中でやっているんで、実質としては岡井先生のご提示もあまり変わらない。救急で専門医の基準で判断するのかという話があったが、そんなことはない緊急条件という中で判断が行われる。じゃあ大野病院事件はどうかという話になるかもしれないが、あれは法的には無罪の結論が出ている。基準をつくるために会を作ってやっているんだということを堤先生に一番強く申し上げたい。
パイプをつないでおきたいという話があった。あれが今回の一番キモだと思う。勝手に警察が動くというけれど、警察だって、医療者の協力なり鑑定がなければ動けない。今回は医師の側から見てよりよいものを作ろうということで始まったんだし、その意味で法と医の対話もしている」
岡井
「大野病院事件に関して、医療側が鑑定したからだというけれど、あれは僕の所にも警察から電話がかかってきて、いやそんなに間違いじゃないという話をしたんだけれど、それは無視された。立件したかったら、自分たちの言いたいことを言ってくれる人の意見しかきかない。調査委員会の見解にしても、警察の方が自分の思っているのと同じ意見を探しまわったら1人や2人そういうことを書いちゃう医者も出てくる。だからパイプがあって調査委員会の見解を大事にしてもらうのが大事。若いからとか失敗したからといって刑罰にならないように。先ほどの話で言えば酔っ払って手術というのは正当な医療行為の遂行ではない。そういうものは処罰されて当然仕方ないと思っている。ただそういうニュアンスが誰が見ても分かるような条文にしてほしい。法律で標準からの逸脱と言われてしまえば、薬の取り違えなどはどう強弁しても逸脱してないとは言えない。実際、薬はよく似た名前のものが多いので、当直明けなどにふっと語呂の似たものを間違えちゃうことはある。考え方だから、国民がそういうのも全部刑罰だというなら仕方ないんだけど、しかし医療の向上には向かない、働かない。手錠を持って手術室の前で間違えたら逮捕だぞという、薬間違えたら逮捕だぞとやる、どちらもミスを減らすのには逆効果だ。それよりは本当のことを言ってくれという方が、原因が分かってくるから安全につながる。そのためにも刑事と切り離すことが必要だ」
前田
「そこは完全に切り離すべきだというのとパイプをつないでおきたいというのが裏腹になる。211条を直すといっても、それはきっと国会を通らない。その中で一番合理的なつなぎ合わせは、パイプをつなぐ中で情報交換することだ。そのような信頼関係があれば性善説でなくともうまくいく」
堤
「事故調で一例一例積み重ねてよいものにしていくというのも一つの考え方ではあるが、しかし警察や検察の人が事故調に出てくるのか?出てこないとしたら、素人が過失のあるなしを判断することになる。過失のあるものが通知されなくなっても警察や検察は本当に構わないのか。どんなものが過失にあたるか検討しようと思えば、すでにモデル事業の経験が何十例もある。そうでなくとも業務上過失とされたもの過去何十年もの類型化もできる。で、実際はそんなこととっくに検察はやっているはずだ。だから法と医の対話を求めているんだ。警察や検察は組織で動くから1人だけ出てきて何か言ってくれと言っても無理だ」
高本
「随分と誤解がある。過失があるかどうかの判定はしない。本来、離れている。法的判断と医学的判断を同時にやるようなファンクションする話じゃない。再発防止のためにやるんだけれど、しかしそれでは刑事事件に関する心配が拭えないから、警察の捜査にも裁判にもそれぞれ誤りはあり得る。だから刑事事件で処理するのを極めて限ろうという話だ。岡井先生とほとんど同じと思う。刑事に振り回されていると思うのは誤解だ。刑事で扱うものを悪質なものに限りたい。医療者が皆で考えて、これはちょっとヒドイというものだけに。医学界は8割どころか9割ぐらい、これには賛成している。しかし今のように誤解があると話がおかしくなるので、今まで14回の議事録をもう一度読み直していただきたい。我々は、責任追及するためにするんじゃないと繰り返し確認している」
山口
「せっかく3学会から来ていただいて、常に触れられているのは、この医療行為にどこで刑事の線を引くかということで、せっかく3学会から来ていただいているので、故意と悪意のあるものを刑事で扱うことについては異論がない、だったらそれ以外の医療行為で、悪意というのも実は難しいのだが、こういうもの以外でどういうものは刑事の対象になると線引きできるだろうか、おっしゃっていただければ」
岡井
「法律の文章にするとどうなるのかは難しいのだが、自分も手術するのが良いとは思っていないのだが診療報酬が高いから手術したというようなものは正当な業務遂行とは言えないだろう。自分の研究のために、きちんと説明せず、もちろんきちんと説明すれば良いのだが、ちゃんと正当な手順を踏まないで新しい術式を行って患者さんが不孝な目に遭った、そういうのも正当な業務遂行とは言えないだろう。ただし一所懸命やったのだけれど力が足りなかったというような場合、大野病院事件でもブラックジャックみたいな医師がいれば助かったかもしれない。技量を上げていく方向に行かないといけないのだが、刑罰では難しい。これは論文を読んだとかではなく人に聴いただけの話だが、米国でも単純ミスを刑罰の対象としていたが全く減らず、システムの改善に取り組むようにしたら半減したということがあったと聞いている」
堤
「資料の中に我々の見解は出ている。明白な過失というのが、それだ。医療で国が過失に問える医療水準とは何なのか。国家試験レベルでないと他の国家試験との整合性が取れない。なんで専門医のレベルが業務上過失に問えるのか。医療界は各学会が努力して技量や知識を向上させ専門医の制度を作っている。弁護士会よりもよほど努力している。弁護士が司法試験を通った後にさらに医療問題専門弁護士資格なんてのを作って更新しているか、していない。そこを我々が医師としての誇りとプライドにかけて医療水準の向上を日々図っている。それを国が業務上過失のあれにするのは本当に法的に合っているのか。自ら努力していることを処罰の基準にする、一体どこにそんな根拠があるのか、法曹界の方々に問いたい」
前田
「代表して答えるというわけではないが、水準が高く設定されているという主張だと思うが、現実に刑事罰が課されているのは本当に問題のあるものだ。刑法というのは過誤の再発防止だけが目的ではできていない。被害者の応報感情に応えるというのも入っている。被害に遭って苦しんでいる、そういう人にどう対応するのかも入っている。実際の運用では、医療が特別のものというのは入っている。その中で有罪になるのは、ごく一部であり過失の程度も限られている」
児玉
「3人の参考人の意見は、微妙な点で異なっているが、パイプ、第三次試案の(39)の部分については異論がないように聞こえた。それで間違いないか」
堤
「届け出ない部分に問題あるものも含まれることになる。それで国民が納得するのか。問題あるものを見逃さないためには全例送るしかないのでないか。高本先生のお話では、過失のありなしは判断しないということだったから。これ以上分かりやすく言えないくらいに簡単な話だと思うのだが」
児玉
「岡井先生、並木先生はご同意いただいているのだろう。堤参考人は全例届け出るという主張か」
堤
「そうではなくて」
児玉
「イエスかノーかで言っていただきたい」
堤
「イエスとかノーとか言う話ではないだろう。プロスペクティブにやるのか、レトロスペクティブにやるのか、ゴチャゴチャやっているんだから、それで責任追及するならいっそ全例送った方がスッキリするだろう、という逆説的な言い方だ」
児玉
「逆説的言い方が多いので、真っ直ぐに言っていただいたら、先生だったらどうなるのか」
堤
「そういう具体的な事を我々は検討して資料として出している。明確な基準を、医療界と法曹界とが共同して示せと」
児玉
「では、この文言をどう変更しろというのか」
岡井
「今まで主張してきた通り、そういうものも含めて刑事にすべきでないというのが我々の主張だ。皆エラーをするんだ。それが重大な結果になる。別に若いから技量がないからミスするとは限らない。イチローは世界一守備のうまい外野手だと思うが、それでも1000回守備機会があれば何回かはポロリとやる。それと同じで、ベテランでも名手でもミスをすることはある。そして、それが人の死につながる。いつ自分がそうなるかと誰もが思っている。そういう背景があるから、文言の表現としては、せめて「悪質な事例」というのを例外の中ではなく全体にかかるようにしてほしい。そこをしつこく言っている」
前田
「会場の借りている時間もあるので手短かにお願いしたい」
木下
「医療界としては、医療事故を警察に届け出るという流れが避けられなくなっていて年間250例くらいあって、そのうち検察へ送られる立件されるのも100件くらいある。この第三者機関ができなければ、この流れが今後も続く、それを何とかしたいということで、この議論はやっている。あえて前田先生が座長を引き受けてくださったことは、医療界は感謝しないといけないんだ。司法の話というのは難しい。一番大事なのは警察へ届け出る代わりに、どんな組織を作るかという話であり、原因究明だけで責任追及しないということであれば、今まで通りに警察は入ってくる。そうでない組織を考えましょうということなんだから。一番大事なのは大綱案の12の1に書いてある通り、医療関係者の責任追及が目的ではなく、医療関係者の責任については、委員会の専門的判断を尊重する仕組みとするということだ。
真剣に議論して、これはヒドイというものであるなら刑事に通知すると判断するんで、そうでないケースであればそれこそ警察は入ってこない。いかに限られたものにするかということで議論しているので、誤解だ。性悪説じゃなくて、社会の現実からスタートしないと、議論しただけで終わってしまって全く意味がない。あえて司法も協力してくれるということになった中で作るとなった以上、できないじゃなくてやる必要がある。前田座長が引き受けてくれたのはいいこと。司法の側も、法務省も警察庁もやるならやってみてほしいと任せてくれているんだから、救急も今の議論に全面的に協力していただきたい」
豊田
「内容が刑事ばかりで、遺族の私にはとても入れない議論だった。一言言わせていただければ、被害者の一番望んでいることは真相究明だ。あまり詳しく述べられないが、わたし自身は医療界を信じられなくなるできごとがあった。事故を起こした医師に対して、その直後に学会が専門医資格を与えた。どこが事情作用なのか。これまで被害者の思いに、医療界が応えてくれたとは言えない。ここにようやく様々な立場の人が一緒になって作っていこうという場が初めてできた。私も医療安全の現場に身を置いて、院内の事故調査がいかに難しいかに直面している。丸投げじゃなくて実現性を考えると第三者機関を作って、そこが支援する流れの方がよいのでないか。今は真相究明してもらえていないと多くの遺族が考えていることだけは知ってほしい」
鮎澤
「この検討会は議事録を含めだいぶ注目されているので、今回随分と逆説的な表現がなされたので、一言申し上げておきたい。仕事柄、院内の事故調査委員会などによく出させていただいているが、その参加者たちは、ほとんどが例え厳密には公正でなくとも公正であろうと、中立でなくとも中立であろうと真摯に対応されていた。そこの所はきちんと分かっていただきたいので、一言言っておきたい。モデル事業に関して言えば、双方が出席しての説明会が開かれている。ここの議論の資料になるはずなのだが、外から見ているとどうも分かりづらい。何とか見せていただくことはできないだろうか」
山口
「今、現場では公正中立であろうとしているというお話をいただいた。なかなか難しいのだが、しかし本当に皆さん真摯に対応されている。ああいう人達がいる限りは、第三者機関ができても大丈夫だと思う。資料に関しては、表に出すあれとして全てではないが、ご了解得られた報告書の概要はホームページに公表されている。将来のこの委員会の参考になるだろう。モデル事業の宣伝が足りないということは言われるとその通りなので今後もっと広めていきたい」
次回は11月10日だそうだ。
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