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知って得する 診療科のナゾ
日本の医療の大きな特徴は、患者がどこの医療機関を受診しても構わない「フリーアクセス制」です。どこに行ってもよいということは、裏返すと自分で決めなければいけないということ。患者が最適の施設・診療科を判断することは、ほぼ不可能なのに、自分で受診先を探す建前になっているのです。
適切な医療機関かどうか分からないと疑心暗鬼になりやすいですし、「最適」を求めて何カ所も受診するとしたら医療費の重複もバカになりません。だから、この仕組みがうまく回るには、イザという時、最初に受診した医療機関から、適切な施設・診療科へキッチリ紹介してもらえるという信頼感が必要です。この『最初の医療機関』が、いわゆる「かかりつけ医」です。
実は、フリーアクセス制と並ぶ日本医療の大きな特徴がもう一つあります。医師免許さえ持っていればどこで何科(麻酔科を除く)の診療所を開業しても構わない(ただし病院開設には病床規制があります=08年5月号「医療計画」特集参照)自由開業・自由標榜制(コラム参照)です。
何科を標榜してもよいのですから、看板と実際とが一致しないことも起き得ます。もし患者の受診先を役所などが強制的に決めてしまうと、大変なことになりかねません。だからフリーアクセスと自由開業制は表裏一体のセットと言えるでしょう。
自由受診・自由標榜は世界的に見ると特異な仕組みです。こうなったのは、戦後ずっと医師や医療機関が足りなかったため、開業医に地域医療の中心的な役割を果たすよう期待して、できるだけ自由度を高く開業しやすいよう配慮したためです。
しかし、医療が高度化・複雑化するに従って、複数の専門家が得意分野に特化して分担・連携する病院の役割がどんどん大きくなりました。病院そのものも大幅に増えました。増えた市中病院の大多数は、自前で医師を育てるのではなく、大学医局から派遣を受けるのが普通でした。
一般に大学医局というのは専門別に細かく分かれています。人数からいっても間口の広さからいっても、一つの医局が総合病院の全勤務医を賄うことなどありえません。結果、市中病院は出身医局ごとに診療科を分けた方が何かと都合がよく、逆に医局側から見ると市中病院の診療科は出先機関として位置付けられることになったのです。
市中病院は一般的な症例を数多く経験できること、診療科によっては他大学との混成になって見識を広められることから、大学医局が医師を育てる上でも好都合でした。
ただし、同じ市中病院でも診療科が違えば派遣元が違い、医師も市中病院に終身就職したつもりはないわけですから、他の診療科の扱う分野への関心は薄くなりますし、病院内での横の連携も弱くなります。10年ほど前まで、総合病院で複数の診療科を受診すると、その度に初診料を取られたことをご記憶の方もいらっしゃるのではないでしょうか。保険上、別の医療機関扱いされる位置づけだったのです。
このように病院が増えて専門分化が進んだことが、この項冒頭で説明した日本独自の仕組みを危うくしています。
標榜科と専門医 医療機関から患者・一般市民への情報発信は制限されており、大きくは標榜科と専門医資格の2つしか広告することができません(ただし、医療機関内やホームページ内に出すのは「広告」でないので、もっと色々書けます)。このうち標榜科は、医療法施行規則に則った形であれば、厚生労働大臣許可の必要な『麻酔科』以外は何をうたっても自由です。決意としての「間口」にあたります。内科・外科・歯科の3つと①臓器や体の部位②症状③疾患④患者の特性・診療方法を組み合わせるか、精神科や産婦人科など省令に列挙されたものをそのまま使うかするよう、4月から表示方法が改められました。対して専門医資格は、外部から見た客観的な「奥行き」にあたります。ただし専門医資格は各学会がバラバラに認定しており、学会内の認定基準と学会に対する認定基準はそれぞれあるものの、資格そのものの統一基準はありません。