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統合失調症 患者も誤解も多いんです。


脳の中で何がおきている?

50-1.2.JPG 見てきたとおり、症状が一定でなくどういうものか捉えづらい統合失調症ですが、先述のように「心の病」の一つであることは、なんとなくお分かりいただけたと思います。以前の特集で、心の病は「脳の不調」とご説明しました。なかでも統合失調症の症状が現れているときの脳の働きについては、ようやく近年、徐々に明らかになりつつあります。
 通常、脳の中では、精神活動を含むあらゆる情報が「神経伝達物質」という化学物質を介して伝達されています。しかし、その分泌や作用に過剰あるいは不足が生じると、情報伝達に混乱をきたし、さまざまな統合失調症の症状が出現すると考えられています。いろいろある仮説の中で、特に関与が注目されている神経伝達物質は、「ドーパミン」と「セロトニン」です。ちょっとややこしいので図を見ながらお付き合いください。
 幻覚や妄想などの陽性症状は、中脳辺縁系と呼ばれる神経経路を通っているドーパミンの機能が過剰であるために引き起こされています(A)。一方、前頭葉を通る中脳皮質系のドーパミンの機能が低下すると、陰性症状や認知機能障害が現れてきます(B)。
 また、セロトニン神経系はドーパミン神経系(C)を抑制するように作用することが知られています。両者のバランスが崩れて中脳皮質系でセロトニンの働きが優位となった時も、陰性症状が出るとみられます。
 加えて、最近ではグルタミン酸なども統合失調症の症状に関与しているのではないかと考えられています。

発症の原因ははっきりせず

 統合失調症がそもそもなぜひき起こされてしまうのかについては、まだよく分かっていません。ただ、いくつかの原因が複合的に影響して発症するということは間違いなさそうです。ざっと挙げると、遺伝的素因、環境因子、脳の機能的・器質的変化、もともとの性格などの関与が考えられています。
 ただし遺伝的素因については、誤解されやすいので注意が必要です。例えば、遺伝子が全く同じ一卵性双生児ですら、一方が発症した時に他方も発症する割合は約50%程度。また統合失調症の人の約9割は、両親は統合失調症ではないことから、遺伝的素因は発症に関わる一因子でしかないことが分かります。病気が遺伝するのではなく、病気のなりやすさが遺伝するという程度に考えたほうがよいでしょう。
 また、統合失調症はかつて、養育環境の悪さが原因とされた時期もありました。しかし生活の仕方や環境も、あくまで発症の一要因にすぎません。ただ、日常的にストレスの多い環境は発症に影響すると考えられているのは確かです。
 脳の機能的・器質的変化というのは、主に胎児期のウイルス感染や栄養不良、あるいは出生時の無酸素状態などから脳に障害が生じ、神経系の発達・成熟に影響を与えて統合失調症の原因となる、という考え方です。とはいえ、これらもあくまで危険因子です。
 もともとの性格に関しては、一定の傾向が知られています。例えば、内気、おとなしい、神経質かと思えば無頓着、傷つきやすいなどの気質がみられ、社交性がなく孤独を好む人が多いとも言われています。もちろん、そういう性格だと統合失調症になる、という風には言えません。

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