がん 医師の言葉が分からない。
がんになってしまったら人生の一大事。
様々に決断を迫られるけれど、
医師の言葉がよく分からない。
そんな人が意外と多いようです。
監修/竜 崇正 千葉県がんセンターセンター長
土屋了介 国立がんセンター中央病院院長
医師の言葉が分かりにくいのは、特殊な単語や語法がたくさんあるから。元気なうちから医療用語に親しんでいる一般人は多くないので、本来は医療側が平易な言葉遣いを編み出してほしいところですが、当面は患者側でも自衛策として勉強しておくことが必要です。
今回は、国立がんセンターの調査で、特に患者が聴き取れていないと分かった専門用語を中心に、がん診療の流れに沿って下の注で説明していきます。
肺に影があります編
ロハスメさん49歳男性は、会社の定期健康診断のX線画像で肺に何やら怪しい影が見つかり、総合病院の呼吸器科を訪れました。
医師「悪いものの可能性がありますので、一体何なのか、どこから来たものか調べます。まず採血してシュヨウマーカー(1)を測ります。それから、胃カメラで上から、大腸カメラで下から消化管の様子を見ます」
ロハスメ氏「肺のことなのに、なぜ消化管を見るのですか」
医師「消化器から肺に転移することが多いからで、元が消化器だとすると治療法も変わってきます」
医師「消化管はキレイですね。では次にCT撮影をしてもらいます」
医師「肺以外に怪しいものは見当たりません。この肺の細胞をセイケン(2)したいんですが、キカンシキョウ(3)の届かない場所にあるので、ペットケンサ(4)しましょう」
医師「やはり肺に取り込みがありますね。ただし、がんだとしてもこの肺に見えている部分がゲンパツソウ(5)の可能性が高く、コンチシュジュツ(6)が可能です」
ロハスメ氏「どんな手術ですか」
医師「全身麻酔をかけ、脇腹を少し切り開き肋骨の間にいくつか数cm大の穴を開けてキョウクウキョウ(7)を入れ、カメラで胸の中を観察しながら器具を操作してこの影の部分を切除して取り出し、術中病理検査(次々項コラム参照)に出します。ソシキケイ(同)が良性なら傷を閉じて終わりです。悪性だったら開胸手術に切り替えて、肺の下半分を切除すると共に周辺のリンパセツカクセイ(8)を行います」
ロハスメ氏「手術以外の方法はありませんか」
医師「ここから先は、細胞を調べるにも手術が必要です。最初はシュクショウシュジュツ(9)で行いますし、シュウガクテキチリョウ(10)の観点から見ても、この段階では切除手術がヒョウジュンチリョウ(11)です。セカンドオピニオンをお取りいただいても結構ですが、なるべく早く決断してください」
ロハスメ氏は、手術を受けることにしました。結果、やはり肺がんでしたが、手術は成功しました。
≪語句説明≫
(1)腫瘍マーカー
がん細胞・組織が特徴的に作り出す物質で、主に血中から検出可能なもの。再発のチェックや病気の進行具合、薬の効き具合をみる目安として用いられる。一般に早期診断には利用できない。
(2)生検
病変のある臓器から組織を一部取り出し、顕微鏡で観察する検査=組織診検査(ソシキシンケンサ)。病理検査の一つ(次々項コラム参照)。
(3)気管支鏡(検査)
内視鏡検査の一種。胃カメラより細いチューブを口から気管に入れて、組織の様子を観察する。その際に組織の一部を採取することもある。
(4)PET検査
放射性元素を含んだ糖分を注射した後に撮影し、糖分の取り込みが盛ん(がんもその性質を持つ)な組織を見つける検査。
(5)原発巣
がんが最初に発生した部位の腫瘍。
(6)根治手術
体内のがん細胞をすべて切除してしまえば、理論上がんは根治できるので、それをめざす手術。手術の中には、全切除をめざさず症状緩和を目的とするものもある。
(7)胸腔鏡
胸の脇側に2~3cmの穴を開けて中の様子を見るカメラのこと。そのカメラの画像をモニターで見ながら、同じような大きさの穴から入れた器具で手術を行うこともある。
(8)リンパ節郭清
遠隔転移を防ぐため、リンパの流れに乗って原発巣からがん細胞の移行したリンパ節、その可能性のあるリンパ節を予防的に切除する手術。
(9)縮小手術
患者に与える傷をできるだけ小さくするよう工夫された手術。一般に内視鏡下の手術などを指す。良性悪性の鑑別を目的とする場合や、悪性の場合でも早期の限られた症例が対象となる。傷を大きくつくる手術に比べ、難易度の高いことが多い。
(10)集学的治療
がんには、主に手術、化学療法、放射線療法の3種類の治療法がある。この複数を同時に組み合わせて治療効果を上げようとするもの。
(11)標準治療
世界的に見て、同じ状況だったら第一選択となるであろう治療法のこと。選択の基準はエビデンス(次々項参照)で示される。