研修医が見た米国医療3
"かかりつけ医"が入院後も診療継続
反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。
日本では、病院で働く医師は勤務医、自分自身の診療所を持つ医師は開業医と呼ばれ、はっきりと区別されています。勤務医は病院に雇われ、給与はすべて病院から支払われます。開業医は診療所を独立採算で経営します。
しかし米国ではそのような区別ははっきりしていません。
米国ではほとんどの医師が自らのオフィスを持ち、そこで週に何日かは自分の患者さんを診察します。これが外来診療にあたります。それと同時に、病院でも働きます。多くの場合は一つの病院と契約を結んでおり、自分の患者さんがその病院に入院している間は主治医として診療を継続することが可能です。
どちらの場合でも、米国の医師はドクターフィーと呼ばれる、自分の診療行為に対する代金を患者さんに直接請求することで収入を得ます。これが採血やレントゲンなどの検査料、ベッド代など他の代金と完全に区別されていることが、日本との大きな違いです。
医師の収入が医療行為そのものに対して独立して確保されることで、医師が場所に縛られない診療体系が可能になるわけです。
この制度の良いところは、一人の医師が外来から入院まで診療を継続できることです。患者さんは、主治医が提携する病院に入院すれば自分のことをよく知る先生が入院中も診てくれるため、安心して治療を任せられるという側面があります。
しかし一方で、入院中は濃密なケアが必要にもかかわらず、主治医が常に病院にいることができないというデメリットもあります。また、入院中は週末も継続して診る必要がありますが、生活の質を重視する米国の医師が毎週末病院に来るはずもありません。
そこで必要となるのが、研修医と週末のカバー体制です。研修医は常に病院にいますので、患者さんの訴えや容態の変化への細かい対応をします。外来主治医は一日に一度病院に来て大まかな流れをチェックし、研修医に翌日の指示を出すだけで良いのです。大きな変化が生じたり、重要な決断を迫られたりする場合には、研修医が電話で外来主治医に連絡を取り、判断を仰ぎます。週末は主治医が来ることもありますが、多くの場合他の医師がカバーします。
米国では医師同士が診療グループを作っており、週末や休暇をお互いにカバーし合います。医師にとっては非常に効率的なシステムで、過重労働することなく、きちんと休みを確保することが可能です。その一方で、継続的な診療はしづらくなり、研修医としても誰が誰をカバーしているか分からず、主治医との連携が取りづらくなるという問題があります。
中には病院にあまり来ない主治医や、連絡がつきにくい主治医もいて、診療に支障を来たす場合もあります。この問題を解決するために登場したのが、ホスピタリストと呼ばれる職種です。これは日本の勤務医に近いものなのですが、その詳細は次回に。