研修医が見た米国医療16
無保険者15%の米国 医療が破産を招く
反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。
米国で、外来受診時や入院時に患者さんが最初に確認されるもの、それは保険の有無です。保険がないと全額自己負担になるので、まず支払い能力があるかどうか問われます。クリニックや病院は損をしたくないので、未払いが生じるリスクを避けようとします。結果、多くの場合、無保険者の受け入れを制限します。
自己責任主義が幅を利かせる米国では、医療保険を持つか持たないかも自己責任だ、という意見があります。皆保険の導入に関する議論は、国が国民に保険を持つことを強制することに対する強い拒否感を引き起こします。皆保険制度は国民一人ひとりの選択の自由を侵害している、と捉えられるのです。しかし保険のない人は、必ずしも自ら進んでそうなっているわけではありません。むしろ多くの場合、保険を買えないため、仕方なく無保険で過ごしているのです。
米国で普通の人が医療保険を手に入れる方法は主に二つです。一つは雇用者を通じて手に入れる方法。自分の勤める会社が保険会社から医療保険を買い、その料金の大部分を支払ってくれます。もう一つは、非常に貧しくなるか、障がい者認定をもらうか、65歳以上になるかで、国が提供する保険をもらう方法です。
一方、無保険になるのは、上記にあてはまらない人たちです。自営業、小さな会社の従業員、パートタイム従業員などが典型的な例です。仕事はあるけれど収入が十分でなく、雇用主も保険を支払えるほど経営体力がない。そして、国の保険をもらえるほど貧困ではないし、年も取っていない人たちです。
保険料は、日本では収入が少なくても減免などにより、なんとか支払える額に収まることが多いと思いますが、米国では桁違いに高く、民間保険なので減免もありません。平均的な一家族の年間保険料は、1万ドルを超えます。これを個人で払うことはほぼ不可能ですし、小さな事業者の場合、雇用者の医療保険料を支払うことが非常に大きな負担になります。
無保険だと医療を受けた際には言い値で請求され、法外な料金を支払わないといけません。入院した場合、支払いが1千万円を超えることは稀ではありません。したがって、保険のない人はできるだけ医療にかからないようにします。すると受診が遅れ、診断が遅れ、病気が進行して合併症が生じます。さらに、受け入れ制限によるアクセスの悪さが受診抑制に拍車をかけます。受診控えが病気の合併症を増やし、結果として死亡率や医療コストが上がることは、いくつかの過去の研究で示されています。
米国では、自己破産にいたる一番の理由が医療費の支払いです。全体の15%に上る無保険者は、常日頃から非常に高いリスクを背負っていることになります。普通の人が医療費で自己破産する現状は、やはりおかしいです。日本では保険があることを当たり前のように感じていましたが、それが実はとても恵まれたことなのだと実感します。