研修医が見た米国医療24
綿密な相互評価 手厳しくも的確
反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。
米国研修の面白いシステムに、Peer Review(相互評価)というものがあります。例えば、インターンとして病棟で1カ月働いたとします。するとその終わりには、一緒に働いた上司や看護師長などから数々の項目について評価されます。仕事熱心だったか、他のチームの医師とうまく連携を取れていたか、患者さんには優しかったか等々。そして逆に、インターンからも上司を評価します。もちろん誰がどのような評価をしたか、ということは本人には分かりません。
日本で働いた時も指導医からの評価などはありましたが、それを双方向にして、さらに広範に、綿密にしたような印象です。それが定期的に行われ、その研修医の評価として使用されます。米国で教育を受けた人には、これは当たり前のシステムのようです。高校、大学、メディカルスクールと、学業成績のみならず、推薦状を含め他人からの評価が重視されるからです。医師になれるのはそれを勝ち抜いてきた人たちばかりですので、そのシステム内でどう振る舞うべきか熟知しています。
この相互評価システムには良い点と悪い点があるように思います。良い点の一つは、医師としての振る舞いを改善する強い動機を与えること。普段の行いが悪いと、それが直接評価に影響し、将来の進路にも影響します。確かに患者さんや看護師さんに対してマナーの悪い医師、横柄な医師を私の病院ではほとんど見かけません。逆に医学部を卒業したばかりのインターンには、態度があまり良くない人も時々見かけます。すなわち、相互評価システムが医師としてのプロ意識を培っているのです。
一方、良い評価を得ることを目的にした行動がとられる懸念もあります。例えば、インターンは一緒に働く上司からは評価されますが、同期から評価されるとは限りません。すると上司の前では非常に熱心でありながら、上司が直接関わらない所では手を抜く、という人がたまにいます。ただ、多くの場合このような行動は上司から見抜かれてしまうので、あまり本人にとって望ましい結果を生みません。また、次の職場が決まると、それ以降の評価が将来に影響を及ぼさなくなることから、気が抜けてしまう人もいます。
研修を始めた最初の頃は、上司をどう評価したらいいか分からず、とりあえず「素晴らしい人でした」みたいなことばかり書いていました。ところが蓋を開けてみると、意外と自分に対しては手厳しいことが書いてあります。しかし正当に評価した結果なので、手痛いながらも的確なコメントばかりです。研修を進めるうち、それは本人の成長を促すために必要なものなのだと気づきました。上級医になりインターンを評価する立場になると、相手の弱点に気づかせつつも、建設的なコメントを考えるのは結構大変で、思ったより時間がかかることが分かりました。正当な評価を的確な言葉で伝えることも、研修の一環なのだと今は理解しています。