研修医が見た米国医療21
深く浸透する薬物 病棟でも油断大敵
反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。
日本で「あなたは薬物を使用したことがありますか?」と医師に質問されたことがある人は、少ないのではないでしょうか。しかし米国では、この質問は極めて一般的です。少なくとも私の勤めている病院では、すべての入院患者さんに質問します。日本でいうところの、「タバコは吸いますか?」と同程度の質問と捉えてもらってよいでしょう。
このような質問をする理由は単純で、薬物を使用したことがある人が多いからです。半分くらいの患者さんは、若い頃にマリファナくらいは吸ったことがある、と答える印象があります。実際に米国の統計でも、約41%の人が人生で一度はマリファナを使用したことがあると推計されています。さらに15歳までに約15%、17歳までに約31%がマリファナの使用歴がある、という推計を見れば、薬物がどれだけ米国民の生活に浸透しているかが分かると思います。ちなみに、他の薬物であるコカイン、ヘロインなどはマリファナに比べると「ちょっと試す」くらいで使う人はあまりいません。
内科の入院患者さんにも薬物中毒の方は少なくありません。日本でもニコチン中毒の患者さんが病棟を何度も抜け出してはタバコを吸いに行き、ちょっとした事件になることがありますが、薬物中毒の患者さんにまつわる驚きのエピソードには事欠きません。
たまに聞くのが、友人や家族が病棟に薬物を持ってきていた、という話。日本にいた時、アルコール中毒の患者さんに、「入院中に好きなお酒を飲めないのはかわいそうだ」と家族がお酒をこっそり差し入れていたことがありましたが、それと同じ心情なのかもしれません。他に、病室内に薬物を隠し持っていたという話もありました。ベッドや棚の中かと思いきや、病室の天井にテープで張り付けていた、というから驚きです。天井なんてあまり見上げることがないので、盲点かもしれません。発見した看護師さんもさぞかし驚いたでしょう。さらに、病院内で患者さん同士が薬物を売買していた、なんて話も聞いたことがあります。どれも実際に自分で見たわけではないので、真偽の程は不明ですが、米国ならあり得ないことではないと思ってしまいます。
実際に経験した症例では、入院時に尿中薬物検査が陰性だった人が、入院中どうも様子がおかしい、ということで薬物検査を再度実施してみると陽性だったことがあります。入院中に薬物を使ったのでしょうが、本人に何度聞いても「使ってなんかいない」の一点張りでした。家族が怪しいと看護師さんは睨んでいましたが、周囲を探しても薬物は見つからず、結局うやむやのまま退院していきました。その他、「薬物なんて触ったこともありません」という人が、薬物検査で陽性になることもあります。
念のためですが、米国でも連邦法でマリファナを含めた薬物の使用は禁止されています。皆が使っているのだから私も、というわけでは決してありませんので、ご注意を。