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研修医が見た米国医療20

厳しい病院評価 質の向上に寄与?

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。

「ジェイコが来た!!」
 昨年11月のある朝、私が働く病院の全職員にこんなメールが一斉に流れ、病院内に緊張が走りました。皆さん、「ジェイコ」をご存じでしょうか? それは病院を含めた医療機関を第三者的立場から評価し、合格した施設に認定証を発行しているNPOのことで、正式名称をThe Joint Commissionと言います。その目的は医療の質と安全の向上で、認定は3年に1度の更新制です。
 多くの州でジェイコによる認定が国からの保険給付の要件になっていて、ジェイコの認定を受けないと国から保険が支払われません。日本でいえば、保険指定取り消し処分に相当します。皆保険制度を採らない米国でも、国の保険が効かないと診療を継続するのは困難です。従って、実質的にジェイコの認定は病院にとって必須なのです。
 これにあたる日本の制度に、日本医療機能評価機構の病院機能評価がありますが、病院の参加は任意です。また不参加による罰則や認定による診療報酬加算などはありません。ジェイコは保険支払い認可の決定力を持つ点で、その影響力は段違いです。
 評価の内容は多岐にわたります。病院のミッション、職員のコミュニケーション、感染対策から、職場の清潔度や机の配置まで、医療の質に関係あるのか? と思うようなことまで細かくチェックされます。とても一研修医には把握しきれません。
 日本の場合「この日に行きますよ」と事前通知があるようですが、ジェイコはいつ来るか分かりません。いきなり評価当日の朝に病院に連絡が来るようです。
 従って、昨年が更新年だった私の病院では、早い時期から入念に準備を整える必要がありました。半年ほど前から研修医一人ひとりにジェイコ対策ハンドブックが配られ、審査官に何か質問されたらそれを参照するように教えられました。来訪期限が迫ると、毎週のように病院の管理者から「私たちならできると信じている!」といった趣旨の、研修医を鼓舞するメールが送られてきました。
 そしていよいよ来訪期限直前の朝、彼らはやってきました。大名行列のような集団を想像していましたが、驚いたことに1人です。1人ずつ色々な部署に分かれていたようです。すると、なんと指導医から指名され、私が審査官に症例を提示することになりました。少し緊張しましたが、なんとか滞りなく終え、質問にも模範解答で答え、指導医も満足げでした。その後審査は1週間続き、緊張の時が過ぎていきました......。
 結果的に病院は再認定され、評価も上々だったようです。かなりの心労と準備を要したジェイコ審査、現場から見ると「本当にあれだけの苦労をする価値があるのだろうか?」と思わされます。多くの病院がかけるコストに見合う結果が患者さんに還元されているのかどうか、実際のところよく分かりません。この認定作業が医療の質と安全の向上に本当に寄与していることを、心から祈るばかりです。

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