治療が消える 治療を守る⑥
医療機器や医療材料の供給に関する構造的課題を探っていくコーナーです。
日本の機器価格は高いのか
日本で使える医療機器のアイテム数が欧米の半分しかないことを明らかにした08年の業界団体(ACCJ医療機器・IVD小委員会)による調査で、例えば米国で認可された製品のうち36%は日本で承認申請すらされていないことも、同時に明らかになりました。
申請されない以上、いつまで待っても日本には入って来ません。このような機器類の問題はラグ(時間差)ではなく、ギャップ(格差)で、対策は別に必要だと指摘されることもあります。さて、申請されない理由は何でしょう。実は、ラグに関しては主犯扱いされ、この連載でも追いかけてきた「承認の遅さ」は、挙げられた理由の13%に過ぎませんでした。大半の理由は、コストが高いとか、診療報酬が低いとか、要するに日本では経営が成り立たないというものだったのです。
一方、医療機器の保険償還価格を定めている中央社会保険医療協議会(中医協)の保険医療材料専門部会では、ここのところ診療報酬改定の度に必ず「内外価格差の解消」が議題に上がります。同じ製品が、海外より高く流通しているので、是正したいというのです。
96年に日本貿易振興会(JETRO)が実施した『対日アクセス実態調査』で、例えばある種のカテーテルやペースメーカーの国内価格が、英米独仏の平均価格(FAP)の4倍を超えていると明らかになり、議論に火が付きました。その後、徐々に格差是正が進み、昨年の同部会に出された資料によれば、08年現在の格差は、PTCAカテーテルで1.9倍、シングルチャンバーⅡ型というペースメーカーで1.3倍となっています。
差が縮まったとはいえ、たしかに国内価格は高いのかもしれません。それでも商売にならないというのは、一体どういう理屈でしょうか。
価格の決まり方
まず医療機器(『保険医療材料』というカテゴリーの中に含まれます)の保険価格(償還価格と言います)がどのように決められるか、を確認します。
【新規収載時】
メーカーは、薬事承認を受けた製品に関して、A:製品に個別の価格を求めず手技料など診療報酬の枠内で各医療機関に購入してもらう、B:一定の機能ごと(機能区分)既に定められている償還価格の適用を求める、C:今までにない機能なので別の償還価格(新機能区分)を定めてほしいと求める、のどれにするのか、方針を立てます。AとCの内部でも、それぞれ2種類に分かれます(表参照)。
AとBの場合は、メーカーからの申請を厚生労働省で検討し、特に問題ない場合は、そのまま中医協に報告され了承されます。最速で20日後に保険償還が認められます。
Cの場合は、厚生労働省が学会などの意見を聴取して新機能区分設置が適当であると判断した場合、『保険医療材料専門組織』という非公開の会議に諮って、新たな機能区分の償還価格案を決定し、それが通常は中医協で了承されます。
価格案決定の際、既に似た機能を果たす区分があった場合は、それに比べてどの程度優れているのかによって、1~100%の加算が行われます。似た機能区分がない場合には、製造原価、販売管理費、営業利益、流通経費、消費税などを積み上げて価格設定がされます。どちらの場合もFAPの1.5倍が上限です。
【診療報酬改定時】
機能区分ごとに市場実勢価格を調査し、その中央値+4%が新価格になります。ただし、その新価格がFAPの1.5倍を超えている場合、さらにそこから最大で25%引き下げられます。
銘柄別と機能区分別
C申請の価格の決まり方は、基本的に薬価(07年11月号特集参照)を踏襲していると言えます。
医薬品と大きく異なるのは、Bの分類になると製品個別ではなく機能区分という群に対して償還価格がつくことです。同じ機能と見なされると、どのメーカーでも、改良品でも、旧製品でも同じ価格です。医薬品の場合、発売後に頻繁に改良するのは現実的でありませんが、機器の場合は逆にちょこちょこ改良する方が普通です。改良でも、薬事承認はコストと時間をかけて改めて得る必要がありますので、それが型落ち品と同じ価格になってしまうと、改良品が出づらくなります。
ただし、機能区分別価格制が導入されているのにも、理由があります。中医協を主管する厚生労働省保険局医療課で医療材料を担当する佐久間敦・課長補佐は「従来、都道府県購入価や厚生大臣告示により価格が決まっていましたが、医療機関にコスト意識が働きにくい、価格競争が起きにくいなどといった理由から、機能や価格の競争原理が働きやすい仕組みを導入すべきという中医協の建議が平成5年に発出され、機能区分制が順次導入されてきました。医療材料の場合、医薬品に比べて品目あたりの販売数量が少なく市場規模が小さいことなどから、価格競争が働きにくく、銘柄別ではなく機能区分制度が導入されることとなりました」と説明します。
現在の制度では、これまでの機能区分の製品より優れているから価格も高くしてほしいとメーカーが望んだ場合はC申請することになります。
08年4月から09年9月までの間にC申請を経て新機能区分が認められた17品目を英米独仏の平均価格と比べた倍率は0.64倍~1.41倍。傾向として明らかに内外価格差があるというよりは、高いものも安いものもあるという感じになっています。
ここまでのところでは、何がギャップにつながっているのか、今ひとつ見えてきません。次回、もう少し詳しく見ていきます。