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治療が消える 治療を守る⑩

医療機器や医療材料の供給に関する構造的課題を探っていくコーナーです。

疑義解釈委員会 その後

 前回、日本医師会(日医)にある疑義解釈委員会の出月康夫委員長に話を聴いたところ、「(解釈委員会の)審議状況というのは公表されているんですよ。誰がどんなことを言ったというのは速記録がありますから」「冊子にして出していて、ほしいと言えば誰にでもくれると思いますよ」「(歴史の検証を受けることは)できると思います」とのことでした。
 そこで早速、日医事務局に速記録を見せてもらいたいと依頼しました。が「非公開ですね。出月先生の勘違いではないですか」と、間髪入れずに言われてしまいました。
 これでは、出月委員長の言葉全体の信頼性にも、大きな疑問符が付いてしまいます。
 ただ、嘘じゃないか、と憤るだけでは話が前に進まないので、日医側にも理があるのかもしれないという視点で、いったん立ち止まって考えてみることにします。
 今でこそ日医と厚労省は表面的に蜜月の関係で歩んでいますが、かつて日医と旧厚生省は、医療をどこまで国が保証するのかという点などを巡って、激烈な闘争を繰り拡げたという歴史があります。そしてその時点では、日医の主張は、患者・国民の利益を代弁する所が大でした。その闘争の成果として、疑義解釈委員会も存在しています。
 こうした経緯もあって、医療業界内部には、「厚労省がメチャクチャな通知を出そうとした時には、疑義解釈委員会が歯止めをかけている。なくなったら恐ろしいことになる」と、その働きを評価する声があります。
 そんな構造が隠れているのかと驚きますし、権力に歯止めをかける仕組みが非常に大切なこともよく分かります。ですが21世紀の視点で、この言い分を吟味してみると、どこか変です。
 メチャクチャな通知が出てきたら、そのメチャクチャさを公表して国民世論に訴えかける方が、民主主義国家である以上、よほど実効性が高いはずです。マスメディアが情報を統制していた時代とは異なり、その気になれば情報を流通させる手段はいくらでもあります。
 また百歩譲って、厚労行政に待ったをかけられる組織は日医くらいしかないという現状を追認したとしても、それと医薬品や医療機器の保険収載の可否を検討することと、一体何の関係があるのでしょうか。

問題は企業秘密?

 いずれにせよ、疑義解釈委員会が恥ずべきことをしていないのであれば、堂々と内容を公表すればよいと思われます。これに対して、いやいや公表したくてもできない理由があるのだ、という声もあります。
 たしかに国に置かれた機関の方でも、中央社会保険医療協議会(中医協)の下部組織である『薬価算定組織』とか『保険医療材料専門組織』とか、保険収載に関連する審議会はすべて非公開になっています。
 なぜ非公開になっているかといえば、まだ保険適用されていないような医薬品・医療機器類は、ほとんどがいわゆる「新製品」であり、企業秘密の塊です。審議の状況を公表すると、企業秘密も公表することになってしまうので、できないという理屈です。
 ちなみに、そのような「企業秘密」を扱う関係上、公務員や、みなし公務委員である審議会委員には守秘義務が課せられています。
 それはそうかもしれないな、と納得しかけた時、さらに大きな問題に気づきます。
 日医の疑義解釈委員会は、国の審議会ではありません。委員も、みなし公務員ではないので、守秘義務がかかりません。そのような対象に情報を開示するというのは、一体どういう理屈でしょうか。
 そもそも、疑義解釈委員会に諮っているということを、厚労省は全く公表していません。公表すると、守秘義務はどうなっているんだという問題が生じるために、公表していないのでないかという疑念も湧いてきます。
 さて厚労省は何と答えるでしょう。
 保険局医療課の井内努課長補佐が答えてくれました。ちなみに8月号の際にも、医療課に取材していますが、その後で人事異動があったようで課のメンバーは大きく入れ替わっていました。

――なぜ、疑義解釈委員会に諮っていることを公表していないのでしょう。

井内 位置づけ的には、事務局の内部の業務の一環としてやっているものになります。いったん企業などから預かったものに関して、専門家の方の意見を聴くというもので、過去ずっと同様の経緯でされていたので、それを続けているということですよね。その公表をどういう形でするのかはあると思いますけれど。

――中医協の下部にも、専門家に聴くという位置づけの専門組織があります。重ねて疑義解釈委員会に尋ねなければならないという理由がよく分かりません。

井内 専門組織では、値段とかカテゴリーとかをキッチリ決める議論をしていただくのですが、議論の素材としてどういう情報を出していくのか、我々だけで決めるのではなく、現場で本当に器具なんかを使う先生方にリスクとかメリットとかを教えていただいて、そもそもそれはどういうものなのかというのを我々もちょっと理解をしないといけないというのがあります。それをした上で、専門組織にお諮りするというプロセスをずっと取ってきていることではありますよね。

――守秘義務はどうなっていますか。

井内 医師会の会議の中で、良識で守っていただいているというところはあると思うんです。実際今までそこから具体的に何か漏れたということはありませんし。ただ、今の時代と合ってないような所はあるのかもしれませんね。医療関係は歴史のあるプロセスの所が多いので、これだけではなくて、時代に合った形でできるように考えていかなければならないとは考えています。実際これについても、医師会だけでなく色々な関係団体ともやりとりしながら、具体的にどういう形がよいのかというのは検討をしています。

 やりとりに出てきた「事務局の業務の一環」だから非公開で、「医師会の良識」を信じて守秘義務もかけていないという点、分かったような分からないような感じがします。もう少し詳しく聴いてみることにします。

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