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治療が消える 治療を守る⑦

医療機器や医療材料の供給に関する構造的課題を探っていくコーナーです。

抑制と成長の狭間で

 前回、海外で承認・使用されている医療機器類が日本に入って来ない大きな理由として、「日本では採算に合わない」とメーカーが主張していること、一方で中央社会保険医療協議会(中医協)では、むしろ同一製品の価格が海外に比べて高すぎて問題視されてきたことを説明しました。
 この2つの見解をパっと読んだだけだと、どちらかウソをついていると思いそうになりますが、両者が本当のことを言っていても、こういう現象は起こり得ます。
 昨年7月、業界団体AMDD(米国医療機器・IVD工業会)が三菱総研に委託して調査した報告書が出されました。日本市場と欧州市場とで、一体何にどの程度の経費がかかるかを分析したものでした。
 報告書によれば、いわゆる工場製造原価以外の部分、つまり承認を得るのに必要な治験などのコストや営業経費、在庫関連費に関して、日本は欧州に比べてはるかにコストが高いことが分かりました(表参照)。
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============= 治験コストなど薬事承認に関する問題は当欄でも何度か指摘してきましたが、注目すべきは、絶対額で見た場合に営業経費や在庫関連費の差の方が、はるかに大きいということです。これでは、同じ製品が海外より高くなってしまって当然です。
 なぜこんなことになるかと言えば、日本では高度な機器を扱う医療機関が多すぎ、当然のことながら1機関ごとの症例数が少なくなるため、営業の効率も在庫管理の効率も悪くなるからだと報告書では指摘しています。
 恐らくは、過去に甘い償還価格が付いていて、効率が悪くても儲かった時代があったのでしょう。しかし、近年は、海外と比べても、最初からそんなに高い価格が付いているわけではないということは、前回も説明した通りです。旨みは残っていないのに、この非効率だけが残っているのだとしたら、「採算に合わない」という主張が出てくるのは仕方ないような気もします。

骨太の後遺症

 さらに、実は直近の3年間、別の要因が働いたとの指摘もあります。郵政選挙での自民党圧勝後に打ち出された『骨太の方針2006』で、社会保障費の自然増を年2200億円ずつ抑制することになりました。社会保障費とは、平たく言うと年金や医療、福祉に充てられる経費のことです。
 自然増というのが、若干分かりづらい言葉でしょうか。日本は高齢化が進んでいきますので、放っておいても医療や介護を受ける人は増えていきます。また医療は日進月歩ゆえ、新しい治療法や薬や機器が出てきます。古いものと同じ価格や量で入れ替わるということは稀で、通常は新しいものが出てくると医療費も増えます。こうしたもののトータルが自然増で、何もしなければ年間1兆1千億円ずつ増えるので、5年間かけて1年分遅らせようと年2200億円という数字が出てきていました。要するに、医療費の増えることが問題視されていたわけです。
 この方針は、民主党が圧勝した昨夏の総選挙直前に撤回されました。逆に言うと、07年度から09年度まで3年間の予算は、その方針で立てられ執行されています。診療報酬引き下げのあった08年度は抑制の原資が見えやすいのですが、診療報酬改定の狭間だった07年度と09年度は既存の予算項目に削りを入れるしか方法がありませんでした。07年度は雇用保険の国庫負担縮減とか生活保護の見直し、09年度には後発医薬品の使用促進などが抑制原資として扱われました。
 既存の予算項目に削りを入れるということは、権益を奪われる人がいるということで抵抗も強いというのは、事業仕分けなど見ていてもよく分かる話です。
 予算上は明示されていなくても、医療費の自然増そのものを抑制しようというマインドが厚生労働省には、当たり前にあったと考えられます。その方法の一つは、既存の行為に関して総量を抑制する、つまり今までなら認められた医療行為を制限するとか、報酬支払いの上限を定めるといったことです。もう一つは、新たな医療行為につける価格を安くすることです。

一転、成長分野扱い

 前回の当欄で、よい医療機器なのできちんと保険償還価格をつけてほしい、とメーカーが考えた場合は、薬事承認を得た後にC申請をすることになると説明しました。
 ただし、だったらメーカーは何でもかんでもC申請すれば得かというとそんなことはなく、B申請であれば最短で20日後には保険収載されますが、C申請の場合、いつ保険収載されるか読めないところがあります。保険収載されるまでの間、メーカーは機会ロスをすることになります。しかも当然のことながら、C申請が必ず認められるとも限らないのです。
 厚生労働省によると、08年度に行われたC申請は15件で、新機能区分が設定されたのは9件、そうでなかったのが6件でした。売れる期間が減るという犠牲を払って価格上げを狙ったのに、それが認められないというのは、メーカーにとってショックの大きい話です。
 ただし09年度は、だいぶ状況が変化して、申請のあった18件中16件に新機能区分が設定されました。09年度には政権交代があり、医療をこれまでの抑制対象分野から成長分野と見なすよう、大きな路線転換が行われましたので、ひょっとするとそれが影響しているのかもしれません。もう少し調査が必要なようです。
 ということで、一体誰が新機能区分を認めるとか認めないとか判断しているのかと突き詰めて行ったところ、何やら妙な話にブチ当たりました。

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