研修医が見た米国医療5
同じ処方箋が何回も使えます
反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。
皆さん、米国では1枚の処方箋で同じ薬が何回も買えることをご存知でしょうか。これをリフィル(再調剤)といいます。
例えば外来で2カ月分の高血圧の薬の処方箋をもらったとします。処方箋にはリフィルが何回可能か書き込む場所があり、医師は2回、3回などと書き込みます。患者さんはその処方箋を薬局に持って行き、薬を2カ月分もらいます。処方箋はその薬局に保管され、2カ月後にもう1度行けば、医師の診察を受けなくてもその処方箋を元にまた2カ月分の薬をもらえます。リフィルの回数分だけ、1枚の処方箋で薬が繰り返しもらえるわけです。
状態が安定している場合、医師は1枚でリフィルを含め半年間分は同じ薬がもらえる処方箋を書くことが多いので、患者さんは半年に1回だけ医師の診察を受ければ良いことになります。頻繁に医師の診察を受けなくても薬はもらえるので、患者さんからすればありがたい制度なのではないかと思います。もちろん薬がなくなる前に診察を受けることも可能です。
医師としても病状が安定していれば、処方箋を書くためだけの外来受診を減らすことができます。患者さんは処方箋が保存されている薬局へ行けばリフィルをもらえますが、薬局は薬がなくなる時期(上記では2カ月後)にならないと払い出しをしないので過剰投与を防ぐことが出来ます。また服薬コントロールを薬局で管理しやすくなる利点もありそうです。
しかし、医師は半年後に再診すればいい時に限って半年分のリフィルがもらえる処方箋を書くわけではありません。例えば、糖尿病の血糖値のチェックのために1カ月後に再診の予約を入れていても、とりあえず処方箋は半年分書くことが多いのです。再診に来てもらえるよう1カ月分だけの処方箋を書けばよいと思うのですが、私の上司いわく、「薬がなくなったら、患者さんがちゃんと診察にくるようになると思うのは間違いよ。彼らは薬がなくなっても医者に来ないから、薬を飲まない時期ができるだけ。リフィルさえ出しておけば、少なくとも薬は飲んでくれるわ」とのこと。
そんなものか、と思いつつ、違和感も覚えました。再診に来るかどうかさえ患者さんの意思を尊重する米国らしい考え方なのですが、どこか無責任な感じもします。薬がなくなったから診察に来る患者さんはやはり多いですし、患者さんも薬さえ飲んでいればいいだろう、という気持ちになりはしないでしょうか。
また、まだリフィル分が残っている状態で薬を変更する場合には、自己管理がしっかりしている人でないと、重複投与や誤服薬の危険性も増えそうです。医師側もすべての薬剤に関してどれをどれくらい処方したか明確でない場合が多く、どの処方箋が必要かは患者さんの自己申告任せになりがちで、時に危なっかしく思います。これも医師が患者さんの服薬管理もしなければいけないという日本的な医師の考え方なのでしょうか。