研修医が見た米国医療9
医療職が専門分化 ゆとりも費用も大
反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。
米国の医療現場では、日本には見られない様々な職種があります。例えば、患者さんを救急室から病棟へ、病棟から検査室へと運ぶことだけを仕事とする患者搬送係。せん妄や認知症などがあり、自分で点滴を抜いたり一人で病棟を徘徊したりする危険がある患者さんの隣に一日中座って監視することを仕事とする患者観察係。他に、患者さんに点滴の針を入れる点滴係などがあります。
日本の病院ではこれらの仕事はほぼ全て看護師さんか医師が行っています。せん妄や認知症の患者さんは、家族の方に付き添いをお願いするか、ナースステーションの近くに病室を移して頻繁に観察するか、薬剤でコントロールを図るか、それでも対応が難しく患者さん自身に危険が及ぶ可能性が高い場合、身体抑制をするかしかありません。
上記のような看護補助的な役割の職種以外にも、日本より高度に専門化を進めた職種もあります。特定分野の専門知識を身に着けた看護師、ナースプラクティショナー(NP)や、専門性の高い分野で医師を補助するフィジシャンアシスタント(PA)という職種がそれにあたります。これらの職種は、どちらも医師の監督下で働きますが、経験と知識を積んだある特定の分野に関しては、かなりの技能と権限を持ちます。例えば、泌尿器科のPAは泌尿器科関連の薬の知識や尿道カテーテル留置困難症例への対応技術などは、内科研修医をはるかに凌ぐといった具合です。処方箋も書け、薬剤のオーダーもできますので、研修医と同程度かやや上くらいの裁量があります。
主治医からしてみると、彼らの存在は非常に助かります。カルテや退院要約、診断書など、あらゆる書類を作成してくれますし、病棟での細々した対応なども大抵やってくれます。看護師からすると、専門知識を高めることで医師と同等の働きができるNPは、キャリアアップとして魅力的な選択肢のようです。もちろん専門分野外の対応は不得手で、多臓器疾患を持つ複雑な症例になると医師の対応能力には及びませんが、担当する症例を専門分野に絞ることで、病棟で活躍しています。
ただし、このような様々な職種の存在が効率の良い医療につながるかは疑問です。というのも、職種が細分化しているので、全体の雇用者数が多くなるからです。日本では医師や看護師が1人でやる仕事を、米国では3、4人で分担しているような感じです。看護補助的な職種の給料は安いようですが、NPやPAの給料は研修医よりはるかに高いのです。増えた人件費は、高い入院費となって結局は医療費増加の原因になります。
一方、人が多い分仕事に余裕ができるので、疲れや不注意からくるミスの確率は減る可能性が高いです。日本の医師や看護師は概して働きすぎですし、専門性の高くない業務によって本来やるべき業務が圧迫されることもよくあります。米国を参考に、日本ではどのようにしたら効率かつ安全な医療を提供できるのか考える必要があるでしょう。