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研修医が見た米国医療11

急性期を過ぎたら治療中でも退院

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。

 米国の入院期間が短い理由の一つには、ソーシャルワーカーが病院にたくさんいて、退院に必要な手続きの一切を引き受けてくれることがあると前回述べました。もう一つの理由に、米国と日本では入院の意味が異なることが挙げられます。
 その違いを簡潔に述べると、日本では急性期と亜急性期まで病院で過ごしますが、米国で病院に入院しているのは本当の急性期のみで、亜急性期になったら別の施設に退院する、ということです。分かりやすくするために例を挙げてみましょう。糖尿病の患者さんが足に感染を起こし、それが骨髄まで波及し、点滴での抗生剤治療が4週間必要になったとします。日本では抗生剤治療が終わるまで4週間入院です。点滴治療中でも受け入れてくれる療養型施設もあるかもしれませんが、稀と考えていいでしょう。
 一方、米国では同じ症例でも入院は1週間ほどです。原因菌の特定、適切な抗生剤の決定、治療への反応の観察といった目的で病院に入院しますが、いったん治療方針が決まって患者さんの容態が安定している場合には、腕に長期間とどめておける点滴ラインを入れて、速やかに亜急性期の患者さんを診療する高度看護施設(米国ではSkilled Nursing Facilityと呼びます)に転院します。高度看護施設には医師と看護師が常駐しており、点滴治療などある程度の医療行為が可能です。
 米国では退院した後の受け入れ先が様々あるので上記のようなことが可能になるといえます。前述の高度看護施設の中には、透析ができる施設、人工呼吸器管理ができる施設など、特殊な医療行為を行える施設があります。またリハビリ施設、日本での療養型病院にあたる看護施設などがあります。医療必要度に応じてソーシャルワーカーが適切な施設のリストを作成し、本人や家族と相談しながら退院先を決定します。
 さらに退院先の一つとして自宅の存在は忘れてはいけません。上記の例でも、点滴ラインを入れて自宅に退院することが可能です。点滴の針を入れたまま自宅に退院するというのは日本人からすると驚きですが、患者さんは抗生剤の点滴の仕方を習って、決められた期間自宅で治療を継続します。本人や家族が同意し、医学的にも社会経済的にも大丈夫だと判断されれば、治療の途中でも患者さんは自宅に退院します。日本ではすべての治療は病院で行って、自宅に帰るときには日常生活に戻れるようになっている、という意識があると思いますが、その観念は米国では通用しません。
 統計上の数字を見ると米国の入院期間は驚くほど短いのですが、高度看護施設でのケアは患者さんからすれば入院と同じようなものです。日本での亜急性期の入院が、施設滞在と名前を変えたと考えればいいでしょう。高度看護施設での滞在期間を入院と考えれば、日米で入院期間にそう大差はないのかもしれません。日本と米国の入院期間を比べるときには、そういった違いも踏まえる必要があるでしょう。

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