ある日突然、子どもの脚が一生動かなくなってしまうーー。「ワクチン後進国」といわれる日本では、今も予防接種による悲劇がくり返されています。いったん治っても数十年後に麻痺が現れる「ポストポリオ症候群」も、隠れた患者は多く、現在から将来へ不安を残しています。
監修/米本恭三 東京慈恵会医科大学名誉教授
「小児まひ」をご存知でしょうか。正式名を急性灰白髄炎。今でこそあまり聞かれなくなっていますが、半世紀前には世界で、そして日本でも大流行したポリオという病気によるものです。何より恐れられているのは、「小児まひ」の名のとおり、一生背負う麻痺症状です。
麻痺症状は、感染者の0・1~2%に現れます。問題は、日本ではポリオの予防接種による感染と、それによる麻痺が後を絶たない点。予防接種を打たなければ何の問題もなく元気に跳ね回っていたのに、です。そしてそのまま一生、手脚の自由を奪われる子が毎年数名ずつ、確実に増えているのです。
これは、日本で使われているのが生ワクチンであるためです。生ワクチンというのは、原因となるポリオウイルスを弱めてワクチンとして用いるもの。経口接種といって、注射ではなくスポイトのようなもので数滴飲み込みます。弱いとはいえ生きたウイルスですから、低いながらも感染の可能性は残っているのです。
ウイルスは口から体内に入ると、のどや小腸の粘膜で増えます。その後、血流に乗って脊髄を中心とする中枢神経系へ到達し、運動神経を司る細胞などに感染して、破壊してしまいます。
麻痺は ある日突然に
もちろん、生ワクチンの接種を受けても特段の症状が現れない子どもが大半のようです。しかし、軽い症状として風邪や胃腸炎のような状態(発熱、倦怠感、頭痛、嘔吐、筋肉痛など)がみられることもあります。そして重ければ、筋肉、特に脚に麻痺が出てしまうのも事実なのです。
潜伏期間は4〜35日。麻痺が現れる時期は様々で、高熱が収まってほっとしていた矢先、ということもあれば、中には発熱もなく突然に麻痺のみが起こることもあります。忘れた頃にやってくるので、原因がすぐに思い当たらないケースもあるようです。
多くの場合、麻痺はいったん完全に回復します。一方、発症から12カ月過ぎても麻痺や筋力低下がある場合は、一生、後遺症が残る可能性が高くなります。
なお、「小児まひ」の呼び名は、5歳未満の子供に麻痺が出るケースが多いことに由来します。しかし実際には、大人のポリオもあります。
ですから注意すべきは看病や身の回りの世話をしている人、同居している家族など全員です。生ワクチンの接種から1週間たつと、唾液にはウイルスはほとんど含まれなくなりますが、便にはまだ数週間にわたって排泄されます。気をつけないと、手指や食べ物、おもちゃなどを介して周囲の人の口に入り、感染する恐れがあるのです。
33歳~35歳の人も要注意。 大人も感染するポリオ。特に1975年から1977年生まれの人は、注意が必要です。その年代の人たちが赤ちゃんの頃に受けたワクチンに問題があったせいで、予防接種によるポリオ免疫の獲得が他の年代より少ないことが指摘されているのです。しかも該当する人たちは近年、ちょうど親になる時期を迎えています。ポリオの生ワクチンを接種した我が子のオムツを交換し、そこから感染することのないよう、くれぐれも気をつけてください。