忘れた頃にやってくるポストポリオ症候群
先に、ポリオの症状が出ても「ほとんどの場合、いったんは完全に回復します」と書きました。問題はこの「いったん」です。
ポリオが恐ろしいのは、感染した直後の手足の麻痺などがいったんは消えたとしても、何の異常も無いままに数十年を経過した後に、かなりの割合で症状の悪化が現れてくることです。これは「ポストポリオ症候群」(PPS)と呼ばれます。
具体的には、急激に疲れが襲う、呼吸障害、嚥下障害といった全身症状や、筋肉が細くなって力が弱くなる、骨や関節が変形する、痛みが出る、などの症状が典型的。麻痺が残った部位ばかりでなく、様々な部位に現れて生活に大きな支障が出てくるのです。
それにしても、なぜPPSは生じるのでしょう。メカニズムは完全に解明されたわけではありませんが、次のように考えられています。図を見ながら確認してください。
筋肉はもともと、脊髄にある神経細胞から伸びてきた枝を通じて脳からの指令を受け、収縮と弛緩を繰り返して動くようになっています。ところポリオウイルスに侵されて死んでしまう神経細胞が出てくると、そこにつながっていた筋肉細胞には刺激が来なくなり、いわば孤児となってしまいます。体は残された神経線維から新しい芽を出して枝分かれを作り、孤児の筋肉細胞の機能を回復させようとします。これが、感染直後から一見「治った」ように見える安定期への過程です。
さて、こうして生き残った神経細胞から新しい枝分かれを出すと、その分その神経細胞の負担が増えます。普段の生活の中でも「普通以上に頑張っている」状態です。これが15年~数十年も「続けば、死んだ仲間をカバーしてきた神経もさすがに疲弊したり、老化とともに弱ってきてしまうことは、想像に難くないですよね。こうしてある日ついにPPSが発症してしまうと考えられています。
接種の前に よく考えて
PPSは、ポリオに感染した経験のある人の20~40%に可能性があるとされています。日本で大流行した頃に乳幼児だった世代は、今ちょうど50~60代。PPSに苦しんでいる方や、それと気づかずに原因不明の身体の不調で悩んでいる方も多いといいます。とある調査では、日本のPPS患者は4万人に上ると推定されています。さらに未来ある若い世代にも、予防接種によるPPS予備群が控えているのです。「乳幼児期に予防接種が原因で麻痺を経験して心配したけれども、まもなく治まってほっとした」という場合、実はまだ安心できるわけではないんですね。
そして残念ながら、ポリオ生ワクチン接種の危険性やPPSについては、医療者の間でもさほど認知度は高くないのが実情です。まして、麻痺以外の症状、例えば呼吸器症状や全身の歪みからくる腰痛など、ポリオとのつながりが分かりづらい場合は、関連が見落とされることも多いとのこと。ですから心当たりのある方や親御さんは、必ず症状や経過を記録に残すようにし、受診時に説明するようにしてください。ポリオとPPSの患者会「ポリオの会」に相談して、アドバイスを受けるとよいでしょう。
繰り返します。ポリオは日本では自然に存在しないにもかかわらず生ワクチンで発症する危険性が残されており、PPSを含め、一生障害を負うことになるかもしれません。これから予防接種を予定している方は、ちょっと立ち止まって、ぜひその点について、もう一度考えてからご決断ください。
ご経験をお聞かせください ロハス・メディカルでは、ポリオ生ワクチン接種後に軽度マヒになった経験を持つ方やご家族のご連絡をお待ちしています(お知り合いの場合も差し支えなければぜひご紹介ください)。長男で同じ経験をしている記者の堀米が取材し、記録させていただければと考えています。将来的にPPSの可能性が否定できない場合、記録を残しておくことが非常に重要です。一緒に考え、歩んでいきましょう。 ご連絡はこちらまで。