睡眠のリテラシー6
高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
これまでは、眠りと言えば夜にとるものという考えがほとんどでした。睡眠の研究も、その傾向がありました。
ところが、近年、昼寝がよく話題に上ります。これは、夜の睡眠がとりにくくなっている現代社会の象徴かもしれません。そればかりではなく、昼寝に関する研究が1990年ごろから盛んになり、その効果や問題点が明らかになってきたことも大きな理由です。
昼寝にはたくさんの良い効果があります。その一番目にあげられるのが、脳にとって最も良い休息になることです。仕事や勉強など昼間には様々な活動をしなければなりません。そうした活動をうまく行えるよう、脳はずっと動き続けています。
ですから、タイミングよく休みをとらないと、脳も疲れてしまいます。仕事の手を休めて、お茶を飲んだり、体を軽く動かしたりするのでもよいのですが、もう一歩進めて、昼寝をとれると、その後の活動を快適に行えます。
ここで、大切なことが二つあります。一つは昼寝の長さです。15分程度に留めましょう。この「プチ昼寝」が眠気や作業能力を改善する働きを持つことは、国内外の研究によって確かめられています。
私たちの調査からは、ある職場で昼休みに15分の昼寝をとったところ、とらない時より、午後の仕事中の眠気は少なくなることが分かりました。従業員さんにお尋ねすると、「単調な仕事をしている時に、あくびの回数が減りました」「身体が軽くなったように感じます」という声がありました。
昼寝を長く(例えば1時間)とると、深い睡眠から目覚めるので、その後しばらくはボーっとしてしまいます。これでは気分も良くないですし、仕事にもなりません。
良い昼寝をとるもう一つの条件は、昼寝の時刻です。遅くとも午後3時まで、と言えるでしょう。夕方に昼寝(夕寝?)をとってしまうと、その夜は寝つきが悪くなり、眠りも浅くなります。
以上のような効果だけでなく、昼寝には長期的な利益もあるようです。ある大規模な調査では、短い昼寝を週に3回程度とる男性の労働者は、昼寝をとらない者に比べて、心臓病で亡くなる確率が約半分でした。女性の労働者では、このような関連は明らかではありませんでした。
昼寝と心臓病による死亡との間で、なぜこのような関連があるのかは分かっていません。おそらく、心臓や血管へのストレスが昼寝を適宜とることによって和らげられるのではないかと考えられます。
昼寝を上手に活用すると、仕事の質も、生活の質も良くなるはずです。今、多くの職場では換気装置付きの立派な喫煙室があります。しかし、その工事費用は相当な額になります。健康を損なう喫煙に高額を使うよりは、生産性の高まる昼寝室の整備に使ったほうが望ましいのではないでしょうか。
たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。