睡眠のリテラシー23
高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
普段の睡眠時間はどのくらいでしょうか。8時間はしっかり眠るという方もいれば、せいぜい5時間という方もいるでしょう。
今の睡眠時間がその後の健康とどのように関連するかはとても気になるところです。幸いなことに、この疑問に対する答えが近年、たくさん集まっています。
このように答えが集まったのは、10年あるいは20年ほど前に多くの人々に普段の睡眠時間を尋ね、その後引き続き健康の状態を調べたからです。いわば、昔にまいた種が今になって花を咲かせたというわけです。長年にわたって大勢の人々を調べ続けるのは実は、かなりの苦労があります。ですが、二つのものの関連を明らかにするには欠かせない方法です。
既にご存じかもしれませんが、睡眠時間が短いと(例えば6時間未満)、太りがちになり、高血圧、心臓病、糖尿病、がんなどになりやすいことが分かっています。そのうえ、死亡の確率も高くなるというデータがあります。それに対して、睡眠時間が長くても(例えば9時間以上)、これらの健康障害は同じように生じやすいことが示されています。
短時間睡眠によってなぜ健康が妨げられるかについては、実験的な研究などから、おおよその見当がついています。一言で言えば、睡眠という「栄養」が足りなくなるため、心身が弱くなってしまうからです。
では、なぜ睡眠時間の長い群も不健康になるのでしょうか。その理由は今のところ明らかになっていません。今後より詳しく調べていく必要があります。
このような睡眠時間と健康に関するデータは私たちの生活を見直す上で、とても大切です。しかし、ご経験されるように、睡眠時間は短くなったり、長くなったり、日々変わります。週日と週末でも変わります。となると、ある期間に睡眠時間がほぼ同じである可能性は少ないかもしれません。
英国の公務員に対する研究では、初回から2回目の調査まで約5年の間に、睡眠時間が同じであった群は全体の約半数でした。残りを5~6時間から長くなった群、6~8時間から短くなった群、7~8時間から長くなった群に分け、約12年後の死亡率を調べました。
すると、睡眠時間の同じあった群に比べて、6~8時間から短くなった群と7~8時間から長くなった群は共に死亡率が上がりました。死因をみると、前者では心臓病が多く、後者ではそれ以外の病気の多いことが分かりました。なお、5~6時間から長くなった群は死亡率が下がるかもしれないと予想されましたが、そのような結果は得られませんでした。
この研究では、睡眠時間の増減をもたらす原因までは確かめられませんでした。とはいえ、睡眠時間の変化の仕方に伴って、その後の死亡率や死因に違いが生じるというのは興味深いことです。