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研修医が見た米国医療13

弱者に優しくない医療保険システム

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。

 ご存じの方も多いと思いますが、米国に住んでいる人の約15%は医療保険を持っていません。保険がないと、米国では本当に大変です。その理由の一つが、医療の値段です。保険が利かない段階の元値を比べると、米国は日本の10倍以上することも稀ではありません。
 出産を例にとってみます。特に問題のない普通分娩だとして、日本では初回妊婦健診から入退院まで約45万~50万円かかります。それが42万円の出産育児一時金で還元され、個人負担は数万円です。これが米国の場合、私の経験に基づくと、保険がない場合の総額は約250万円に上ります。米国では医療の値段が場所によってまちまちなので、必ずしも一般化できるものではありません。しかし、ある程度信頼できる病院で出産すると、これくらいかかると考えてよいと思います。
 なぜ両国でそんなに値段が違うのかは今回は置いておいて、これが保険を持っていたらどうなるでしょうか。まず加入している保険会社が病院や医者と値段の交渉をしてくれます。私の事例では、この交渉によって元値が3割ほどになりました。250万円が75万円になったわけです。病院や医師がどれだけ最初に高い値段を提示しているかが分かります。個人で病院を相手にした場合、対等の立場で値段を交渉することはできませんので、保険を持つことがどれだけ大切か分かるのではないでしょうか。
 75万円は保険会社が病院に支払う、医療の対価としての値段です。そこから先は、保険会社と個人の契約に応じて、患者負担が決定します。私の場合、個人負担が2割で年間限度額もあったため、結果として負担は10万円ほどでしたが、話はそんな単純ではありませんでした。
 保険会社はできるだけ保険を支払いたくないので、支払いの対象を限定しようとします。例えば私の場合、彼らは不正出血のため予定外に生じた診察1回分の支払いを拒否しました。そして1回の診察代金の元値の3万円の請求書が届きました。これを保険会社が支払う場合、上記の交渉により7500円に値が下がり、個人負担はその2割の1500円になるわけです。
 はじめ保険会社に対して、これは支払われるべきである、という旨の連絡をしました。しかし「現在検討しています」の返事のみで1カ月待たされました。そこで、雇用先の保険担当を通じて上記の旨を伝えたところ、その翌日には支払いの決定がなされました。
 極端な例に見えるかもしれませんが、米国の医療保険制度を端的に表す事例といえます。交渉力の弱い個人に対しては、病院も保険会社も真摯な対応をすることに利益がありません。患者さんは交渉力のある自分の代弁者を通じて意見を述べなければならず、それは雇用者であったり、組合であったり、弁護士であったりするわけです。そしてその手間と時間も馬鹿になりません。日本に比べ、消費者に厳しい医療保険制度だと言えるでしょう。

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