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がん⑤ 抗がん剤なぜ効くのか1


がん封じ込め 作戦あれこれ。

 抗がん剤が、がん細胞に働きかける道筋(作用機序)には、いくつかのパターンがあり、現在100種類ほど使われている抗がん剤をグループ分けすることができます。代表的なものは、①アルキル化薬②代謝拮抗薬③白金製剤④トポイソメラーゼ阻害剤⑤抗がん性抗生物質⑥微小管作用薬といったところです。駆け足でご紹介していきます。

① アルキル化薬
 抗がん剤の中では最も早く開発されました。マスタードガスという毒ガス兵器の研究の産物という、禍転じて福となったような薬です。体内に投与されると、DNAに炭化水素基(アルキル基)をくっつけて結合します。そうしてニ本鎖のはずのDNAを一本鎖にしたり、二本鎖をほどけなくしてDNA複製を妨げ、がん細胞を破壊するのです。代表例は、世界中で最もよく使われている抗がん剤のシクロホスファミド(エンドキサン)。乳がんや肉腫はじめ、ほとんどのがんで使われます。ブスルファンも白血病等に対する造血幹細胞移植などによく用いられます。
② 代謝拮抗薬
 この薬剤の多くは、構造がDNAの材料(基質)と似ているのが特徴。そのためDNA複製に働く酵素が勘違いしてそちらに働きかけ、結果として複製が妨げられたり、あるいはそのまま取り込まれて異常なDNAを作ったりします。がん細胞の分裂は失敗し、腫瘍が大きくならないどころか、時には小さくもなります。国内外で最も使用頻度が高いのは5-フルオロウラシル(5-FU)で、消化器がんをはじめ様々ながんに用いられます。
 DNA複製に必要な葉酸の代謝を阻害することでDNA複製を妨げるものも、代謝拮抗薬の中に含まれます。代表は「葉酸代謝拮抗薬」のペメトレキセド(アリムタ)。肺がん治療になくてはなりません。
③ 白金製剤
 その名のとおり、薬の構造中に白金(プラチナ)が含まれています。投与されるとDNAの二本鎖に白金が結合して橋をかけ、複製を阻害し、結果としてがん細胞を自滅させます。代表例はシスプラチン(CDDP)、カルボプラチン。大腸がんなどには第三世代の白金製剤、オキサリプラチンが多用されています。
④ トポイソメラーゼ阻害剤
 トポイソメラーゼ阻害剤は、細胞分裂の際にDNAの切断と再結合を助けるトポイソメラーゼという酵素の働きを妨げて、切断部位に入り込み再結合を阻止します。DNAが切断されたままの状態となり、がん細胞は死滅します。代表例はイリノテカンやエトポシドといったところ、様々ながんに使われます。
⑤ 抗がん性抗生物質
 抗生物質は土壌に含まれる微生物から作られたものです。一般的な抗生物質が細菌を死滅させるのはご存じですよね。それと同じように、がん細胞を死滅させる抗生物質がこの薬剤です。作用の仕方には色々ありますが、たいていは、がん細胞のDNA合成を阻害したり、DNA鎖を切断するなどしてがん細胞を直接的に死に追いやります。よく使われるものとしては、ブレオマイシンやドキソルビシン(アドリアシン)等が挙げられます。
 さて、ここまでの5種類は、働き方はそれぞれでも、狙う相手はすべてDNAです。それに対し、次のグループはちょっと違います。
⑥ 微小管作用薬
 「微小管」は、先ほどおさらいした細胞分裂で染色体の分離に働く「紡錘体」を作っているもの。つまり「微小管作用薬」は微小管に結合して紡錘体の働きを阻害し、細胞分裂を妨げて細胞を自滅させるものです。代表薬にビンクリスチンやパクリタキセル(タキソール)があります。

一気にたたくか、じっくりいくか

 抗がん剤の作用機序の違いによって、投与の仕方にも違いが出てきます。
 アルキル化薬と抗がん性抗生物質は「濃度依存性」の抗がん剤と言われ、がん細胞との接触時間は短くても、濃度が一定以上あれば効力が得られることが分かっています。マイトマイシンCなど、1回の点滴が30分程度で済むものだと、外来治療にも便利です。
 一方、代謝拮抗薬やトポイソメラーゼ阻害剤、微小管作用薬は、「時間依存性」の抗がん剤と言われ、低容量を長期間あるいは何度も投与することになります。というのも、これらの薬剤は細胞分裂周期の特定の時期に効果を発揮するのですが、すべてのがん細胞の周期が一致しているはずはありません。そこで薬剤を長時間、体内に存在させることが重要になるのです。

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