がん⑤ 抗がん剤なぜ効くのか1
進行抑制をめざして。
現在、抗がん薬で完治する可能性のあるがんとして、小児の急性リンパ性白血病(5年生存率70%以上)、精巣がん(同60%以上)、悪性リンパ腫(非ホジキン型、40~60%)絨毛がん(必要に応じて手術も併用。ほぼ100%)などの報告があります。
ただ、抗がん薬のみで根治できるがんの割合はまだ小さく、進行を遅らせるということが抗がん剤治療の主な目的になります。それが期待できるがんには、乳がん、卵巣がん、骨髄腫、腎がん、慢性骨髄性白血病など、色々あります。一方で、脳腫瘍、黒色腫、膵がん、肝がんなどには、残念ながら今のところ効果を期待できる薬が出ていません。
また、進行を遅らせてくれる抗がん剤も、永遠に効くわけではなく、いつか効かなくなる日が来ます。「がんが薬剤耐性」を持つと言います。
ある抗がん剤を使い続けていると、がん細胞自身が身を守るため抗酸化や解毒に関する遺伝子を発現させ、その薬の働きを抑える物質が細胞内に作られるようになるのです。がんに限らず、細菌に対する抗生物質や、農作物への害虫に対する農薬でも、同じようなことが起きるのをご存じかもしれません。
抗がん剤治療を受けている人にとって、耐性が出てくるかこないかは非常に大きな問題です。抗がん剤治療を中止せざるを得ない最大の原因と言ってもよいでしょう。逆に、耐性が出現せずに体に負担が少ない抗がん剤治療を続けられるとしたら、かなり長く、がんと共存して生き続けることができます。薬剤耐性の詳しいメカニズムの分かっていない抗がん剤がほとんどですが、今後の研究に期待したいところです。
異なる機序を上手に組み合わせ
がんの種類によって比較的よく効く薬とそうでない薬があり、また後述する副作用の出方も異なります。そのため作用機序の異なる薬を組み合わせることで、最小の副作用で最大の効果を得ようと、二つ以上の抗がん薬を組み合わせて使うことも多くなっています。「多剤併用療法」と呼ばれます。
例えば、肺がんには通常、白金製剤と他の種類の抗がん剤を組み合わせる併用療法が勧められます。また、増殖スピードが速くて不治の病のイメージが強かった小児がんも、20~30年前に比べて多剤併用療法が進歩した今では、約8割が治るようになっています。
また、ある機序の薬に耐性が出てしまった場合も、異なる機序の薬に切り替えることで治療を継続できることがあります。
投与の計画については、その時その時ごとに使う薬を選んでいくのでなく、あらかじめ長期的に決められ、それに従って行うようになっています。その計画を紙面に示したものをクリティカルパスと呼びます。薬の分量は多くの場合、体表面積あたりで決まっていて、患者さんの体重と身長から割り出します。