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睡眠のリテラシー12

高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員

 このところ、「朝活」というのが流行っています。早起きして、朝の時間を趣味や英会話のレッスンなどにあてるそうです。では、これを明日の朝から始めるとしたら、皆さんはどのくらい簡単にできそうでしょうか。

 いわゆる朝型の方はほとんど問題ないと思われます。ところが、遅寝・遅起きである夜型の方にとっては苦痛にほかならないでしょう。もしかしたら無理かもしれません。最近の研究によれば、眠りのタイミングは個人の努力で変えられる部分とそうでない部分のあることがわかってきました。

 何時に寝て、何時に起きるかなど私たちの1日のスケジュールは体内時計によって、ほぼ決められています。この体内時計の中身がどのようになっているかについて、遺伝子に注目した研究が熱心に行われています。しかも、嬉しいことに、時計遺伝子に関する研究はわが国の専門家が世界をリードしています。

 体内時計はいくつもの遺伝子によって、巧みに調節されています。ある一群の遺伝子は時計のスイッチを入れます。すると、特別なタンパク質が作られ始めます。このタンパク質はどんどん増えていき、一定の量に達すると、今度は別なタンパク質と一緒になって、スイッチを切る働きをします。

 そうなると、特別なタンパク質は作られなくなるので、減っていきます。ある程度まで少なくなると再びスイッチが入り、特別なタンパク質がまた作られ始めます。

 このような一連の流れがほぼ24時間かけて行われ、体内時計は一回りすることになります。体内時計が正確に刻まれれば、心身の働きは快調になり、睡眠や健康は良くなります。そうなるかどうかは、何時にどのような光に当たるかによって決まります。

 朝の得意な人、宵っ張りができる人の時計遺伝子を調べると、遺伝子の特定の場所に違いのあることがよく見つかります。そのせいで、体内時計の刻まれ方が微妙に変わるのでしょう。

 朝が得意で損をすることはあまりないかもしれません。逆に、朝が苦手だと、なにかと不便です。会社や学校は普通朝早くに始まりますので、いつも遅刻していたのでは大変なことになります。

 体内時計の病気の一つに、朝5時頃にならないと寝つけず、起きるのは昼頃という眠りのタイミングが極端に後ろにずれてしまうタイプがあります。当然、社会生活に大きな支障が出てきます。治療は体内時計を朝型にシフトさせる薬を飲んだり、人工の照明を使って時計の回り方を修正したりするのが基本になります。

 体内時計がいったん壊れてしまうと、本人の努力で元に戻すのは難しくなります。また、治療も容易ではありません。体の中にある遺伝子を変えることはできないので、体内時計がよい状態で動き、長持ちするよう、光の当たり方や眠り方に気を配ることが大切になります。

たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。

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