睡眠のリテラシー14
高橋正也 独立行政法人労働安全衛生研究所作業条件適応研究グループ上席研究員
震災後の再生と創造にはかなりの努力が必要になります。目標に至るまで、現地の方々は健康でなければなりません。その源は良い睡眠です。
同じことは、現地で再生と創造の作業を行う支援者にもあてはまります。被災地の役場、消防、警察などで働く人々は、震災直後はほとんど不眠不休であったでしょう。彼らはそれぞれの任務をこなしながら、被災地を再始動させるという重要な立場にいます。
ただし、多くの職員は同時に被災者という事実があります。職場にいる間は支援者として、自宅に戻ったら被災者として、これからを創るという作業はたしかに価値があります。とはいえ、本人にとってはダブルパンチのような状況かもしれません。この困難を乗り切るには、しっかり眠ることがまさに重要な条件になります。自治体職員の健康管理では、良い睡眠の確保を目標の一つとして位置づけることが望まれます。
現地の人々の健康を支えるのは、医師、看護師、保健師などの専門家です。被災地ではこのようなスタッフがそもそも不足しています。そのうえ、今回の震災に伴って複雑な事情を抱えている患者や地域の方々への対応は肉体的にも精神的にも、普段以上に労力を使うでしょう。
保健医療職は目の前の患者の健康には充分に注意しますが、自身の健康は二の次にしがちです。しかし、自分たちが健康でないと、よいケアができるはずはありません。必要な人員の確保など難しい課題はあるかもしれませんが、健康を支える専門家が健康であるために、彼らの睡眠を守ることが大切になります。
福島原子力発電所の事故は今回の被害を増悪させてしまいました。事故後の対応はもはや、現地だけでなく、わが国全体の問題になっています。この対応に携わる職員は、当初、畳を敷いた体育館で防護服を着たまま横になるという、きわめて貧弱な環境で眠らなければなりませんでした。現在では睡眠の環境が改善されていますが、睡眠がしっかりとれないまま、万全の注意が要求される仕事につけば、作業の遅れや誤り、あるいはさらなる事故が生じかねません。
現地以外からの支援者に目を向けると、まず自衛隊員の果たした功績は非常に大きいものがありました。食事、飲料水、入浴場の提供、がれきの撤去など周辺環境の改善、そして遺体の捜索など、どれも不可欠で、危険や労苦を伴っていました。精神的に苦痛を伴う任務の後には、睡眠の乱される後遺症が現れることがあります。事前そして事後の配慮が求められるところです。
ボランティアの方々は多方面で活躍しましたし、今でもそうでしょう。彼らも、けがや病気の起こりやすいなかで活動しなければなりません。安全で健康な支援活動のためには、しっかり眠ることもボランティアの大切な仕事と言えます。
いずれにしても、今回の震災は、睡眠の意味を改めて考えさせることなりました。
たかはし・まさや●1990年東京学芸大学教育学部卒業。以来、仕事のスケジュールと睡眠問題に関する研究に従事。2001年、米国ハーバード大学医学部留学。