がん⑫ 大事な決断 支える情報
患者が、最初に情報を得るのは医師など医療従事者からでしょう。医療者は、患者にとって必要であると考える情報を、分かるように伝えようとします。決して何から何まで全部ではありません。言葉を換えると、彼らの持っている情報の中から取捨選択して伝えています。
よって、医療者がどんな原則に従って患者と接しているか知っていると、どのように取捨選択された情報なのか理解しやすくなります。
なお、患者や家族の事情を考慮しようとする医療者がほとんどですが、神様ではないので、患者・家族の側が伝えない限り分からないことも多くあります。そういった個人的事情に起因することは、早めに伝えるようにしてください。出てくる情報が変わる可能性もあります。
まずは医療者の行動を律する四つの原則です。
1.無危害原則
治療行為に当たっては、患者にできるだけ痛みや苦痛を与えないよう、また合併症や副作用を可能な限り避けるよう配慮する。
2.善行原則
最も医学的に適切で患者に利益が多いと思われる治療行為を行うように努める。
3.正義原則
医療資源の公正な分配を旨とする。
4.自律尊重原則
患者が自分で考えて判断する自律性を尊重しなければならない。必要ならば患者の自己決定を助ける。
以上の原則を踏まえたうえで、実際の行動についても、例えば
●病気の程度、進行、予後等についてどんな情報をどこまで患者に提供するのか
●末期患者に対する臨床試験の是非
●積極的治療から終末期医療(ターミナルケア)への切り替え
●その他、治療拒否など終末期医療の諸問題
など、世界中の医療提供者が悩み、議論しているのです。
自律優先に
近年、善行原則よりも自律尊重原則を重視するよう医療現場の考え方が変わってきました。要するに、本人の意思がより尊重されるようになってきたわけです。今では当たり前の「インフォームド・コンセント」(正しい情報を得た上で治療等に合意すること)も、自律尊重原則に基づいています。
インフォームド・コンセントは、①同意能力ある患者に対し、②これから行おうとしている医療について医師が適切な説明を行い、③患者がその説明を理解した上で、④自発的意思によりその医療に同意する、の各項目を満たして初めて成立します。
そして患者の自律を重視する以上、②の「適切な説明」として必須の情報は
●患者の病名・病態
●実施する医療の内容・性格・目的・必要性と有効性
●その医療に伴う危険性とその発生率
●代替可能な医療とそれに伴う危険性とその発生率
●何も医療を施さなかった場合に考えられる結果
などが挙げられます。
これらに関して、漏れなく説明してくれている場合、患者にとってあまり耳触りのよくない情報であっても、医療者は職業倫理に従って誠実に対応していると考えてよいことになります。きちんとメモを取って、悔いなき判断に生かしましょう。