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予防接種法改正 格好つけても及び腰 透ける厚労省の姿勢


何が遅れているか

 制度を直そうという以上、どういう問題が起きているか、現状把握は欠かせません。
 ワクチンで予防される疾病の多くが、罹ってしまったら根本的な治療法はなく、生死や後遺症が残るか分からないものです。それなのに、世界で標準的に使われている多くのワクチンを、使えない人が大勢います。これが最大の問題です。
 最も根本的な原因は、ワクチンの承認の遅れです。これはこの数年で急速に改善されてきました。
 次に大きいのが費用の問題です。予防接種法で規定された定期接種のワクチンについて、法律上は低所得者以外に自己負担を求めてよいことになっているものの、ほとんどの自治体が自前で財源を準備して無料接種としています。対して定期接種でない(任意接種)ワクチンに関しては、自治体ごと対応がバラバラで、むしろ有料が基本となっています。
 ワクチンの多くは乳幼児を対象とするもので、子育て世代の多くは経済基盤が強くないため、費用負担があると使えないのです。例えば小児用肺炎球菌ワクチンの接種者数は、10年度補正予算で公費助成が行われるようになってから4倍以上に増えました。裏を返すと、それだけの人が、接種したくてもできなかったということになります。

誤答弁騒動

 このため、任意接種のワクチンを定期接種化してほしいとの要望が多く出されていました。
 厚労省の法改正案では、WHO(世界保健機関)が推奨している任意接種の疾病対応ワクチン7つを一気に定期接種化することになっています。しかし喜ぶのは早計です。接種費用を市町村が用意できなければ、有料となって、任意接種と大差ないことになるからです。
 細かく見ると、4つは接種に努力義務のある一類定期接種、B型肝炎、子宮頸がん(HPV)、成人用肺炎球菌の3つは努力義務のない二類定期接種とするそうです。これまで高齢者のインフルエンザ以外は全部一類だったのに、3つも二類に回されたのです。
 一類は社会防衛、二類は個人防衛を主な目的にすると厚労省は定義しており、努力義務のない分、副反応に対する救済を二類は薄くするといいます。この分け方は、科学的にナンセンスでガラパゴスの極みです。それでも区分が独り歩きして、二類を有料とする自治体も出てくるのでないかと懸念されています。
 この点について2月7日の参議院予算委員会で、HPVクチンの無料接種を推進してきた自民党の三原じゅん子氏が質しました。

三原 「予防接種法が改正され定期接種の二類に分類されたら、その後の接種費用はどうなるのでしょうか」
小宮山 「それは、二類に分類しても今と変わらない『ほしょう』がちゃんと付く形にしてございます」
三原 「接種費用と副反応救済制度は今のままということでよろしいんですね」
小宮山 「今のままでございます」

 このやりとりを見ていた多くの人が、そうか無料接種を続けられるよう、国が面倒をみるのだなと思ったはずです。ところが翌8日になって、予防接種法改正の事務局を務める厚労省健康局の外山千也局長が、大臣答弁を訂正したいと言って訪れた、と三原氏がブログなどで明かしています。
 国会で大臣が述べたものを官僚が否定して回るとは、厚労省がどれほど慌てているか分かります。

*冊子印刷後の情勢変化。
 3月12日の参院予算委員会で小宮山大臣が「正しくは定期接種の自己負担については一類・二類ともに市町村の判断によります。(中略)訂正すると共に、委員の質問の趣旨を的確に理解せず、審議を混乱させたことをお詫び申し上げます」と謝罪しました。

 また3月28日の参議院厚生労働委員会では、当事者2人の間でこのようなやりとりが行われました。

三原 2月7日の予算委員会での大臣の答弁について、大臣と私とのやりとりで、ちょっとした行き違いがあったのかなと思っております。本日は、行き違いのあった質問を再度やり直しをさせていただきたいと思っておりますので、大臣、よろしくどうぞお付き合いいただきたいと思います。
2010年の11月からですね、より子宮頸がん予防ワクチンがほぼ無料で、そして副反応救済制度も非常に充実したプログラムで接種できるようになりました。前回の予算委員会のご答弁で大臣が「子宮頸がん予防ワクチンの接種費用、救済制度は、今後も今と同様である」というお答えいただき、私は大変うれしく思いました。これは大臣もずっと一緒に取り組んでこられたこのワクチンの事業が、まさか後退するということはない、そういう制度にはならないという大臣のご認識と、そういう思いからお出になった言葉だったのではないかと思います。ですから、改めてお伺いしたいと思います。子宮頸がん予防ワクチンがもし、万が一ですね、定期接種の2類に分類されたしまったとした場合、この子宮頸がん予防ワクチンの接種費用と副反応救済制度はどのように変わっていくのかということを、改めてお伺いしたいと思います。

小宮山 参議院の予算委員会の時には、今言っていたたいたように私の思いから答弁をしたために、ちょっとご質問の趣旨とは違った答弁になったこと申し訳なかったと思っています。で、まだ1類2類の分類は、今、予防接種部会で議論中でございまして、決定していないんですけれども、もし仰るように2類に分類されますと、それは費用の方は市町村が決定していくということ、それから健康被害があった場合には、そこの補償の金額が違ってくるということがございます。

三原 再度お付き合いをいただきありがとうございました。私はですね、これまで子宮頸がん予防ワクチンについて、小宮山大臣と一緒に取り組んで来て、大臣の予算委員会でのお言葉をお借りするなら私も仲間だという意識でおります。ですから、一番大切なことは、この子宮頸がん予防ワクチンが無料で接種できて、そして副反応制度に関しても手厚い措置が受けられるというこのことが一番大切であると再度申し上げて、しっかりとご対応いただきますよう心からお願いいたしたいと思います。

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