梅村聡の目㉑ 医療労働環境と生活保護 政務官として手掛けます
10月の内閣改造で、厚生労働省の大臣政務官となりました。生活保護制度の改革や医療・介護従事者の労働問題に引き続き取り組むとともに、人材紹介制度の課題にも切り込んでいきます。
今まで党の厚生労働部門会議の副座長などを務めながら、厚労省の官僚の方々と接してきました。事務処理能力はとても優れていると感じます。ただ、普段から国民に接して声を聞いている私の方が、一般的な市民感覚をつかんでいるとも感じています。官僚のモチベーションを下げず、かつ国民の考えに沿った政策を行ってもらえるよう、力を尽くします。
なお私の担当は、労働・雇用や福祉、子育て政策です。医療・介護分野の担当ではないので驚かれた方もいたようですが、むしろ医療・介護に対して発言しやすい場合もあると考えています。
開業医の労働環境
労働政策で言うと、私はこれまで勤務医の労働環境改善に力を入れてきました。今後は、開業医の労働問題と介護従事者の処遇や労働環境の改善にも取り組みます。国民が地域で受ける医療・介護の質を担保するためです。
高齢社会に向け、国は「地域包括ケア」を旗印に、在宅医療への誘導政策を行っています。街全体が"病棟"のようになるわけです。
開業医が、地域の患者さんを常時体制で診療し、かつ「労働基準法に違反しない」体制を組むと仮定すると、一つの医療機関に計算上4人以上の常勤医が必要です。しかし今の診療報酬の点数設定では、そのような体制を組むことは難しいのが実情です。「そもそも開業医は事業主なのだから、労働基準法は関係ない。大きなお世話だ」という声も聞くのですが、しかし一方で開業医の方の過重労働は深刻です。まずはこの事実を国民が知ることが大事だと思います。
24時間365日在宅医療を行っている開業医には負担がかかっています。その状態で、継続的に地域医療の質が保たれることは難しいと思います。
これまで、開業医は事業主なので労働基準法は関係ないとされてきましたが(法律的にはもちろんそうなのですが)、医療の質を守るには何らかの方策が必要です。基本的には診療報酬の拡充や様々な予算措置が必要だと考えます。どこに、どれだけ、つけるのか等、様々な角度から検証し、これから答えを見つけようという段階です。一部のマスコミが「開業医の診療報酬を病院に回すべき」と言いますが、そんなに単純な問題ではないことを知っていただきたいと思います。
人材紹介の検証を
医療従事者の人材紹介に関する問題も提起したいと思います。誤解がないように申し上げますが、私は医療における人材紹介が悪いと言っているわけではありません。
しかし現場からは、「紹介された看護師さんが半年経つとやめてしまう」という話を聞きます。なぜかと言うと、紹介された看護師さんが半年間勤務を継続すれば、紹介業者側は医療機関への違約金を払わなくて済むのだそうです。半年後に辞めた看護師さんを別の医療機関に紹介すると、紹介業者は新たな紹介料を得られます。つまり看護師さんが医療機関を渡り歩く方が、人材紹介業者の利益は大きくなるのです。そういうタイミングで辞めたり就職したりするよう、紹介対象者に「報奨金」を払っている業者もあるようです。私自身はこの事実を確認していませんが、もしそうだとするならなかなか深刻な問題です。
医療は、医療者と患者の信頼関係など、密接な人間同士の関わりがあって成り立つものです。医療者が次々と替わるようでは、患者は安心して医療を受けたり、相談したりできません。スキルの高い看護師が複数の医療機関で引っ張りだこになるというなら分かりますが、業者の利益のために看護師がどんどん変わるというのは、医療の質を守る観点から好ましくありません。
そもそも業者への紹介料は診療報酬が出所で、元をたどれば国民の保険料と税金、患者さんの窓口負担なのです。そして結局は患者さんが迷惑するのです。
生活保護の改革推進
さらに、これまでも取り組んできた生活保護制度の改革を一層進めたいと思っています。
この問題はマスコミからの注目も高く、特に医療扶助に関しては大臣や副大臣も質問を受けています。
以前の連載で「生活保護受給者の医療費については、償還払いを前提にした自己負担の導入を考えるべき」と書きましたが、その結論を出すには、私自身はまだ議論不足だと感じています。医療保険制度や他の福祉制度との整合性を詰める作業や議論が必要です。
生活保護は制度の中身のみが問題なのではありません。医療に対する公的「扶助」の考えと、公的医療「保険」の考え方の間に違いがあるのです。これらを議論するためには、社会・援護局だけでなく、他の局とも連携する必要があります。このため、様々な部局が集まった横断的議論ができるよう、他の政務三役と話し合っていきたいと考えています。論点は多いと思います。
具体的な動きとしては、収入・資産調査で問題になっていた金融機関の一括照会は、2012年12月から可能になります。生保指定医療機関の取り消しは基準を明確化したいと思います。自治体からの家賃の直接振り込み(代理納付制度)、不正受給分の返還も、可能な限り進めたいと思っています。
「尊厳死(平穏死)」の問題にも引き続き取り組みます。仲間の国会議員とも協力して国民的議論を盛り上げたいと考えています。キーワードは「患者の自己決定の尊重」で、至極当たり前の話です。
一部の有識者と呼ばれる方々は「姥捨て制度をつくるのか」などと言いますが、全く見当違いな批判です。医療本体ではインフォームドコンセントが大切だと言われているのですから、人生の終末期における医療についても患者さんの意思を反映させることが必要なことは言うまでもありません。自分の最期についての自己決定を支える仕組みをつくることが、とても大切です。