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ノロに新型が出た。正しく拡大防ごう~大人も知りたい新保健理科⑨

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 今シーズンはノロウイルスの大流行が警戒されています。新型が現れたのです。新型は、これまでの検査方法では検出されにくく、ノロウイルスであるという判定が遅れてしまう懸念があります。大流行させないためにも、前もってノロウイルスに対する知識を持ち、予防だけでなく、二次感染を防ぐ対策もしっかりと行うことが大切です。

 ノロウイルスは、球形に近い正二十面体で、カプシドと呼ばれるタンパク質の殻の中にRNAが1本入っているだけの簡単なつくりです。これが腸管の上皮細胞の中に入って増え、細胞を壊します。たった、10~100個程度で感染し、激しい嘔吐や下痢をひき起こします。

感染源は貝か人

 感染を防ぐためには、感染ルートを知っておく必要があります。感染ルートの一つは食品です。カキなどの2枚貝や水がノロウイルスに汚染されていて、それを摂取したことにより発症します。もう一つが、感染した人からの2次感染です。嘔吐物などの排泄物にあったノロウイルスが他の人の体に付着し、体内に入ってしまう場合です。一見この二つは異なるルートのように見えますが、どちらも感染した人の排泄物を経由している点では同じです。

 ここでちょっと理科の授業で教わった食物連鎖を思い出してください。カキはプランクトンを食べており、一緒に大量の海水を吸い込んでいます。そのカキをヒトが食べています。食べたヒトの体から排泄されたものは下水処理場を通り、河川や海水に流れ込みます。この時、排泄物の中にいたノロウイルスも一緒に流れていきます。

 汚染された海水を吸い込んだカキは、中腸線と呼ばれる内臓にノロウイルスを蓄積・濃縮していきます。ノロウイルスはヒトの腸の中でなら増殖できますがカキでは増えません。しかし、感染性は保っていますので、ヒトの腸に戻ってきたときに再び悪さをします。

消毒には次亜塩素酸

 汚染されていない物を食べ、食品を充分に加熱すれば感染を予防することができます。しかし、意外と難しいのが、感染した人が出した排泄物からの2次感染を防止することです。充分な手洗いはもちろんのことですが、特に嘔吐物の処理を適切に行うことがカギとなります。

 重要ポイントは、大きく三つあります。①体に付けないこと、②次亜塩素酸ナトリウムを使うこと、③舞い散るので乾燥させないようにすることです。

 ①では、使い捨てのマスクやプラスチック手袋、あればエプロンを使ってください。嘔吐物は布やペーパータオルなどで挟み込むように拡げずに拭き取り、ごみ袋に入れ必ず密閉してください。②では、拭き取った後は次亜塩素酸ナトリウム液で拭いてください。次亜塩素酸ナトリウム液は、台所にある塩素系漂白剤を利用して図のように作ることができます(次亜塩素酸ナトリウムが使えない場所には使用しないでください)。なぜ、消毒用エタノールを使わないのですかとよく訊かれるのですが、ノロウイルスは殻とRNAだけで、殻の周りにエンベロープという膜がないため、アルコールが効きません。インフルエンザウイルスには、この膜があり、消毒用アルコールが膜にダメージを与えるのでウイルスを不活化することができます。

 ①のごみ袋の底にあらかじめ次塩素酸ナトリウム液を浸した布やペーパータオルを入れておき、密閉前にも液を噴霧しておくとよいでしょう。ただし、この液は、皮膚には刺激が強いので、手の消毒には使用しないでください。手は石鹸で十分に洗ってください。換気も大事です。

 また、③も重要です。ノロウイルスは乾燥にも強いのです。部屋の空気中に何日も漂います。残っていたノロウイルスが乾燥し、室内の空気中に漂った後、それがやがて床に落ちてきます。漂うウイルスを吸ってしまう可能性がありますし、掃除機の排気口からまき散らしてしまう可能性もあります。

 さらに、もう一つあまり知られていないことがあります。使い捨てのプラスチック手袋の外し方です。片方を外した後、もう片方の汚れた面を触らないように外す必要があります。残った方の手袋の中に手をつっこんでひっくり返しながらはずすのですが、医療関係者は慣れているため無意識に行えます。しかし、一般の人たちは慌ててしまって、気がつかないうちに汚れた面に触れてしまいがちです。今回紹介する本『ノロに見舞われて』の巻末にも、2次感染を防ぐための手袋やマスクの外し方、嘔吐物の処理の方法が詳しく掲載されていますので、ご一読ください。

 このように役立つ情報が本や自治体のサイトに多々ありますので、日頃から留意して目を通しておき、いざという時に適切に迅速に対処することで、新型ノロウイルスの感染が拡がらないよう努めたいものです。

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