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血圧120以下騒動 騒ぐ意味はあったのか~駒村和雄の異論・反論②

循環器内科医 駒村和雄
 高血圧と言えば、日本を含め世界中で上が140以上、下が90以上と定義されている。

 覚えておられるだろうか。昨年、複数の週刊誌に「血圧を120以下に下げろ」「『血圧は120以下に』は本当か」という大見出しが出たことを。

 SPRINTという米国の権威ある研究報告が、最高血圧を120以下にすれば心臓病が減り寿命が延びるという結果を示したことを受けたものだった。週刊誌は、基準が120に引き下げられた場合、日本人男性の43%、女性の38%が新たに「高血圧」になってしまい、今まで高血圧ではなかった人の多くが患者になってしまうから、「製薬企業の策略ではないのか」と焚き付けたのだった。

 米国では、そこまでの騒ぎにならなかったようだ。研究結果が専門誌に報告されたのと同じ日に、専門医であるイエ―ル大学のハーラン・クルムホルツ博士が次のような「研究について知っておくべき3つのこと」という解説をニューヨークタイムズに載せている。

①研究結果は、全員に120以下に下げないといけないと強制するものではない。米国全体では12人に1人、既に血圧治療を受けている患者では6人に1人しか対象者基準に当てはまらない。血圧の測り方も従来と違っていて、医者のいない静かな部屋に5分間座っていてから3回測って平均している。
②血圧をもっと下げた時の利益は、副作用とバランスを取る必要がある。新基準で治療すると、1年で患者200人当たり1人の心臓発作や脳卒中を、300人当たり1人の死亡を防ぐことができる。一方で当然ながら副作用は増え、低血圧は100人当たり1人、失神も1人、腎障害は2人増える。なので、治療には慎重さが必要だ。
③患者さん一人ひとりに合った治療を行うためには、まだ研究が足りない。今回の新しい基準が自分にとって価値あるものか、については薬を増やす前によく議論する必要がある。4種類以上の薬を飲まないと充分に血圧が下がらない患者さんや高齢の方では、利益より副作用の方が大きいかもしれない。今回の研究が、高血圧を見逃されていたり、適切な治療を受けていなかったりする人々の血圧治療に関する医療者との対話のきっかけになれば、好ましいと思う。

 新聞に載ったタイミングといい、数字の挙げ方といい、惚れ惚れした。

 日本でも、発表の4日後に日本高血圧学会が「一般の皆様向けの情報」ホームページ上に、「本研究はあくまで米国で行われた研究です。日本の高血圧治療ガイドラインの見直しをすべきかどうかについて学会内でさらに議論を続け、併せて、日本人を対象とした同様の研究の必要性について早急に検討を進めたいと思います。」とコメントを出したが、週刊誌は騒いだ。クルムホルツ博士のように明快な解説をしてくれる専門医の登場を期待したい。
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