ミャンマー支援 末永くと祈る~駒村和雄の異論、反論⑨
循環器内科医 駒村和雄
今夏もミャンマーの知人医師から、同国の医師向けに心エコー実習で教えるボランティアの誘いがあった。私の所属する臨床心臓病学教育研究会(JECCS)ではミャンマーへの医療支援を続けている。今回の私は、職場を替わったばかりで日程調整できず、仲間の医師に役割を託した。
我々だけでなく、前世紀から息の長い支援を続けるJICA、岡山大をはじめとする6大学連携機構、東南アジアの広い地域で活動するNGOジャパンハート、日本人医師の常駐するクリニックを開設した医療法人大雄会、農村部の巡回診療を続けるNPOミャンマーファミリー・クリニックと菜園の会などなど、本邦の数多くの有志たちがミャンマーの医療環境の改善に尽力し続けている。しかし......。
「タイから運ばないと無理かもしれない」
昨年、実習用に某国産メーカーの超音波機器の手配を頼んだ際の答えに耳を疑った。ヤンゴン市内の病院で使用されている超音波機器のほとんどがサムスン(韓国)製で、他にGE(米国)製とフィリップス(オランダ)製なら手に入るらしい。バブル絶頂期には、国産が全世界の病院を席巻していたのに。
ミャンマー人医師は、総じて穏やかで律儀であり長幼の序を重んずるので、我々とそっくりな顔つきも相まってとても親しみを感じる。しかし多くは日本の医学・医療の学習に必ずしも積極的というわけではなく、戦前にミャンマーの医学教育制度を作った英国のMRCP(英国内科医師会会員)資格を取得するための猛勉強を行っている。MRCPがあれば欧米医療施設や国際機関での就職に活路が開けるのである。ミャンマーの病院で権威があるのは英国が110年前に建てたヤンゴン総合病院とDSMA(軍事医科大学)であり、新ヤンゴン総合病院がJICAの援助で建てられたことはあまり知られていない。富裕層向けの近代的な病院には、隣国タイと同様米国資本が入り込んでいるらしい。
ミャンマーはアジア最後のフロンティアと謳われ、今年アウン・サン・スー・チー国家顧問率いるNLD国民民主連盟が与党となったことで、世界中から投資や開発の案件が集積している。
我々の拙い英語での実習中も微笑みを絶やさないミャンマー人医師たちは、国際認証評価も取っていない日本流医学教育を本当に喜んでいるのだろうか、と不安になった。彼らが望まないものを与えたところで、威勢の良い政治家や経営者がのたまうように、日本流の研修で日本の医薬品や医療機器の良さを知り、いずれ購入するようになるというのは絵に描いた餅ではないのかと思った。東京ドームが500個入るという広大なティラワ経済特別区をタクシーで案内してもらいながら、円借款で大規模工業団地を誕生させるプロジェクトの話を聞いて、もどかしい祈りに似た気持ちを覚えた。