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NNTを見ると良い薬か分かる~駒村和雄の異論・反論⑤

循環器内科医 駒村和雄
 我が国で開発された抗コレステロール薬プラバスタチンは、高コレステロール血症患者さんの心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患発症のリスクを33%下げる、という論文があります。食事療法だけと食事療法とプラバスタチン内服を加えた場合の効果を比較した臨床試験の結果です。

 リスクの低下率だけ見ると、よく効く薬だな、という印象があると思います。

 ですが、もう少し詳しく見ると、食事療法群での発症率は2.25%、食事療法+プラバスタチン群の発症率は1.71%でした。

 発症率は確かに下がっていますけれど、だいぶ印象が変わったのでないでしょうか。

 2.25%は観察期間中に薬を飲まず病気を起こした比率、1.71%は飲んでも病気を起こした比率なので、その差の0.84%(絶対リスク減少度と言います)を、薬を飲んで病気が起こらなくなった比率と見なし、飲んで病気を起こさなくなった人が1人出るには全体で何人薬を飲んだらよいか計算すると、119人となります。裏返すと、1人を救うため、残り118人は副作用のリスクにさらされつつムダかもしれない薬を飲む必要がある、ということです。

 ここに紹介した薬効の表現法を、疫学や薬剤経済学の分野では治療必要数(NNT)と言います。この例だとNNTは119人と言います。

 薬の良し悪しを判定するのに極めて優れた指標で、小さければ小さいほど、良い薬と言えます。

 ただし、NNTに関係するのは、薬の実力だけではありません。先ほどの計算法からも分かるように、薬を飲まないと病気を起こす元々の比率(有病率)が変わるとNNTは変わります。実際、心筋梗塞の有病率が高い北欧で行われた高コレステロール薬シンバスタチンの臨床試験では、NNTは12人と極めて小さくなりました。

 そして、その有病率自体も、公衆衛生政策、経済状態、気候変動、国民の学習レベルなどによって刻一刻と変化しますので、NNTを弾き出すのは大変なことです。加えて、製薬メーカーがリスク低下率だけを盛んに宣伝することもあって、我が国でNNTの考え方は、あまり浸透していません。

 それでも、NNTの視点に立てば、やたらと投薬するのではなく、適切な患者だけを鑑別して投与しようとの意識が働きますので、高額な薬が増え続ける現代では、その重要性は高まる一方です。
 ちなみに、何人に投与すると副作用が1人に出るかという数値も計算することができ、それは有害必要数(NNH)と言われます。こちらは大きければ大きいほど良い薬ということになります。


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