大西睦子 おおにし・むつこ●医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて基礎研究に従事。
欧米に比べると果物を食べる習慣の少ないアジアでも、生の果物を毎日食べる人は、滅多に食べない人に比べて、心臓発作や脳卒中のリスクが低いという論文が出てきました。
4月7日付の『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌に掲載されたものです。
これまで、果物を食べる人で心血管疾患のリスクが低いことは度々示されてきました。ただしそれらは欧米での研究成果で、アジア人を中心とした研究ではありませんでした。今回使用されたデータは、中国全土5つの都市部と5つの農村部の地域に住む51万2891人(30〜79歳)を対象に、英国オックスフォード大学と中国医学科学院が共同で進める疫学研究によるものです。
研究チームは、研究の開始時に心血管疾患の既往がなく、降圧剤を服用していなかった45万1665人について分析しました。
参加者の58.8%が女性、42.5%が都市部在住で、平均年齢は50.5歳(30〜79歳)でした。生の果物を毎日食べていたのは対象者の18%に留まり、9.4%は週に4〜6回、6.3%は滅多にあるいは全く食べていませんでした。
追跡期間中に5173人が心血管疾患で死亡、2551人が主要冠動脈事故、14579人が虚血性脳卒中、3523人が出血性脳卒中を起こしました。
そして、生の果物を毎日食べる人は、ほとんど食べない人に比べて、心血管疾患による死亡が40%、主要冠動脈事故は34%、虚血性脳卒中は25%少なく、出血性脳卒中は36%少なくなりました。この傾向に、地域差や性差はありませんでした。また、BMI値、腹囲、血圧、血糖値で調整しても、大きく変わりませんでした。
以上から、生の果物を頻繁に摂取する人ほど、血圧や血糖値に関係なく、心血管疾患リスクは低いことが分かりました。なお、今回の研究では果物の種類についてデータはありませんが、中国で最も一般的に食べられている果物は、りんごや柑橘類、梨などだそうです。
豊富な微量栄養素
一般に、果物は、カリウムや葉酸、食物繊維、抗酸化物質やフィトケミカルなどを豊富に含む一方、ナトリウムや脂肪をほとんど含まず、カロリーの低い食品です。
カリウムは、心臓の健康に非常に重要です。カリウムの1日あたり摂取量が1000mg増えると、あらゆる原因による死亡リスク(全死亡リスク)が20%低くなることが報告されています。さらに重要なのは、カリウムとナトリウム摂取のバランスです。対カリウム比で、ナトリウムの割合が高い食事を摂っている人は、低い食事の人よりも、心臓発作による死亡リスクが2倍、全死亡リスクが1.5倍でした。なお、ナトリウムの1日あたり摂取量が1000mg増えると、全死亡リスクが20%高くなることも報告されています。
また、フィトケミカルは、抗酸化作用や抗がん作用、抗炎症作用、免疫増強作用など多くの機能が注目されていますが、加熱に弱い性質があります。野菜は加熱調理することが多いのに対して、果物はそのまま食べられるので、効果低下が少なそうです。
日本人も食べよう
厚生労働省・農林水産省の推奨する「食事バランスガイド」では、果物の摂取は、1日200g(みかん2個分、りんご1個分)が望ましいとされています。一方、20歳以上を対象にした厚生労働省の平成26年「国民健康・栄養調査」で、年代別の平均摂取量が計測されています(表)が、どのグループも推奨摂取量には達していません。特に40代までの若年層の少なさが目に着きます。
日本では一年中、様々な果物がスーパーマーケットの店頭に並び、簡単に手に入ります。調理せずに手軽に食べられるのも、栄養素と利便性の両方の観点でお勧めです。それなのに摂取が足りていない現状は非常にもったいないですよね。ぜひ毎日の食生活に、新鮮な果物をとり入れてください!
年代別の果実類類摂取量(g)
男性 女性
20~29歳 40.3 75.7
30~39歳 39.0 65.3
40~49歳 49.2 68.1
50~59歳 82.0 114.4
60~69歳 123.1 154.8
70歳以上 149.9 154.9