食物繊維で上手な加齢~食べ物と添加物と健康㊼
大西睦子 おおにし・むつこ●医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンにて基礎研究に従事。
「サクセスフル・エイジング(上手な加齢)」って、お聞きになったこと、ありますか? 「障害や抑うつ症状、認知機能障害、呼吸器症状を持たず、慢性疾患(がん、冠動脈疾患、脳卒中、狭心症、心筋梗塞、糖尿病)に罹患せず、機能的自立や精神的な健康が保たれていること」などと定義されます。
米国老年学会雑誌2016年6月号に、その「上手な加齢」を食物繊維の豊富な食品が助けそうだ、との論文が掲載されました。オーストラリア・シドニー大学の研究者たちによる研究報告です。
果物や全粒穀物
この研究では、視覚障害や目の疾患を評価するための大規模疫学調査(ブルーマウンテンアイ研究)のデータを使い、調査開始時にがんや冠動脈疾患、脳卒中に罹患していない49歳以上の1609人に関して、145項目の食物摂取頻度調査票で栄養摂取状況を調べ、その後5年目と10年目に病歴アンケートを行いました。
10年後、対象者1609人のうち249人がサクセスフル・エイジングを実現していました。サクセスフル・エイジングを実現できていた人々は、研究開始時点で、そうでない人々に比べて、食物繊維の総摂取量が多い傾向にあり、統計学的には、調査開始時の食物繊維の総摂取量が1単位上がるごとに、サクセスフル・エイジングの実現性は2%高まると解析されました。
食物繊維の摂取源として一般的なのは野菜ですが、今回の研究で特に注目すべき結果になった食品は、果物と、全粒小麦粉など繊維を多く含む原料を使用したパンやシリアルでした。
果物からの食物繊維摂取量が多い上位4分の1は、少ない4分の1の人々に比べ、81%もサクセスフル・エイジングの実現性が高くなっていました。また、パン・シリアルからの食物繊維摂取量が多い2分の1の人々は、少ない4分の1の人々に比べて同じく50%以上高く、逆に死亡リスクは低くなっていました。
血糖の影響は不明
一方、驚くべきことに、食事のGI値、GL値については、サクセスフル・エイジングの予見因子として不十分という結果になりました。
炭水化物と一口に言っても、その種類によって血糖への影響が異なり、他の炭水化物食品よりも血糖値への影響が少ないものもあります。その違いを示すのが、グリセミック指数(GI値)やグリセミック負荷(GL値)で、GI値は炭水化物の質、GL値は炭水化物の質と量の両方を示しています。GI値とGL値は、肥満や糖尿病、心血管疾患の進展・発症に関与すると考えられています。
実際、今回の研究でも、調査開始時の食生活のGI値が1単位上がるごとに10年後の死亡リスクが4%上がっていました。それがなぜサクセスフル・エイジングとは関係しないのか、原因は明らかではありません。データと統計処理の限界という可能性もあります。
2012年にロンドン大学の研究者たちは、16年余りにおよぶ調査の結果、①日々の果物や野菜の摂取 ②非喫煙 ③適度なアルコール摂取 ④運動、すべてを満たす健康的なライフスタイルを送っている人は、1個も満たしていない人の3.3倍、サクセスフル・エイジングを達成していることを示しました。
この4要素のうち最も取り組みやすいのが食生活だと思います。皆さんもぜひ日々の食生活に、果物や野菜、食物繊維の豊富なパンやシリアルなどを取入れてくださいね。