文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

あなたの悩みにお答えします③

病気になってから、やりたいことができません。どうしたらよいでしょうか?
答える人 山本慎治さん(30代男性、クローン病)
聞き書き 武田飛呂城・NPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会事務局長
 私は「できない」には2種類あると思っています。一つは「心理的にできない」と思ってしまうこと、もう一つは「物理的にできない」ことです。

 心理的にできないというのは、できるかどうか考える前に、どうせ無理だと最初からあきらめてしまっているということです。

 私は2011年の4月、腹痛が続き血便が出て、クローン病と診断されました。

 クローン病は、小腸や大腸をはじめ、消化管に炎症や潰瘍が発生し、急な腹痛や下痢をひき起こします。そのため、発病当初は常にトイレの不安がありました。街中で急に腹痛に襲われた時、トイレを探さないといけませんし、電車に乗っていても途中下車してトイレに駆け込むことがありました。いつトイレに行きたくなるだろうかと、不安と焦りを感じていました。

 すると、日常生活でも色々制限するようになります。特に遠出をすることが困難になりました。学生の頃はリュックサック一つ背負って海外旅行に出かけたり、スペインに語学留学をしたり、毎年のように海外に行っていましたが、クローン病になってからは、海外に行くことは考えられませんでした。心理的にできないと思い込んでいたのです。

 しかし、ある時、80歳を超えてエベレストへの登頂を果たした三浦雄一郎さんの講演をお聴きして、高齢になってもチャレンジを忘れない姿から勇気をもらいました。また、患者会等に参加し、同じ病気の人がどんな生活をしているかを知るようにもなり、それまでの自分は、考えることすらせずに、どうせ無理だと最初からあきらめているだけなんじゃないかと思うようになりました。

 そこで、最悪のケースを想定しながら、一つずつクリアできるかを考えようと思いました。トイレの不安は、最悪の場合、漏れてしまったらどうしようと思いましたが、それならオムツを着ければよいだろうかと、自分で対策も考えました。そして2013年、まずは国内の旅行に挑戦しました。旅行では1時間に1本しかない電車に、1時間乗り続けなければいけない場面もありました。しかし、電車も特に問題なく乗れ、体調の良い時は旅行が難しいわけではないと分かりました。

 国内旅行ができたことが自信になり、2015年には念願だった海外旅行に出掛けました。スペインの聖地巡礼の旅で、体調が悪い時も自分で対処しながら歩き通せたことで、自分の人生が広がった気がしています。

 ただ、中にはどう工夫してもできないことがあるでしょう。それが物理的にできないことです。その時は、やり方を変える必要があります。例えば、脚が動かないけど登山をしたいと思ったとします。自分の脚で登ることは難しいです。それならば、車で行けば、山を目で見て、空気を味わい、手で葉っぱを触ってと、自分の足で歩けなくても山を楽しむことができるかもしれません。すべて満足できなくても、80%くらい満足できるやり方があれば、やってみるとよいと思います。

 発病から2年ほどかかりましたが、様々な人の経験を聞きながら、やりたいことをできるようになりました。今度は逆に、私も自分の経験で誰かを後押しできたら良いなと思っています。今では、これが私のやりたいことです。

 病気になってもやりたいことが増えて、しかも、発病前よりも自分や人に優しくなれたとも感じているので、病気になって良かったこともあるなと思っています。
  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ