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ニュース〜医療の今がわかる

産科救急懇話会

本日夕、厚生労働省主催で文部科学省、消防庁も参加して
『産科救急搬送受入のあり方に関する懇話会』なるものが
開かれた。
いろいろと勉強になることが多かったのでご報告する。

懇話会に参加した有識者は50音順で以下の通り。
海野信也・北里大学医学部産婦人科学教授
島崎修次・杏林大学救急医学教室教授
中井章人・日本医科大学産婦人科教授
野口英一・東京消防庁救急部長
山本保博・日本医科大学救急医学教授
産婦人科医2人、救急医2人、搬送側1人という構成だ。


冒頭、外口崇医政局長が
「急な依頼でございましたが、お集まりいただき、ありがとうございました」と述べる。どれ位急かというと、「奈良で受入先の決まらない妊婦が死産するということが起きたのが8月29日で、奈良県では9月7日に荒井知事を委員長とする調査委員会を設け、11月9日に5回目の会合で報告書を出した。厚生労働省でも舛添大臣の指示によりオブザーバーとして職員を派遣し実態把握に努めてきた。奈良県の報告書が出たのを機に、全国的対応がどうあるべきか、御意見を賜わりたい。救急患者を確実に受け入れるシステムの構築をめざす」とのことで
一時大騒ぎになった奈良の事件に関して
先週金曜日の午後に奈良県が出した報告書を受け
急きょ召集をかけたということらしい。
あらかじめ予定が分かっていたのかもしれないが
このスピード感は大したものだ。


ついで佐藤敏信指導課長が
「本日は懇話会となっており、臨時にご意見を伺う。座長や議事進行役などは特に定めないので適宜ご発言いただき、自由にご討論いただきたい」と述べる。
事務局がたたき台を示さず
自由に議論させるものもあるんだなあと、ちょっと感心する。
(10日の『現場からの〜シンポ』で
 私が発表したことを聴いた方は、何に感心したか
 分かっていただけると思う)
アリバイづくりとしても、この方が清清しい。


奈良県の報告書について、事務局が
「問題点と課題」「再発防止に向けての対応策」に分けて
ポイントを説明してから自由討論に入った。


口火を切ったのは海野教授
「救急搬送の問題は以前から認識していた。ただ現場が苦労していたのは、もっぱら施設間の母体搬送であって、一次救急はあまり検討されてこなかった。日本産科婦人科学会で、周産期医療対策事業の見直しに関して7月に陳情に行っているが、その後で残念ながら今回の奈良の事案が起きてしまった。一次のことも含めて、改めて陳情したことをお願いできればと思うので、ご検討いただけないだろうか。

奈良の場合は、なんとしても一次救急を確立するということのようだが、現場からすると現実に人がいない。余りに人がいない。たとえ救急を受けなくても、大幅に法令違反をして働いている。いわば、ごまかしごまかしやってきた部分であり、そこをきちんと決めるとなると、特別な配慮をいただかないと実現できない」


抽象的に喋っているが
要するに、救急を受けた医師には
お金と翌日の勤務緩和を、という話だ。


ここで野口部長が、情報システムについて質問。
事務局が
「医療側の情報が消防に伝わっていないという実体歯たしかにあるが
 しかし夜間に救急を受けていたのは県立医大と数日の市民病院だけ。
 実際には県立医大がダメだという時には、大阪をあたっていたと思う」
と説明する。


中井教授
「一般救急と産科救急は異なる。救急でない通常の分娩も時間外にあるので。(後略)」
言われてみれば確かにそうだ。


山本教授
「2つ質問がある。報告書に患者さん自身のことがほとんど載っていない。医療はスタッフと患者・家族との共同作業という視点が大切。その意味で、この患者さんは、共同作業のイロハのイもできていない。かかりつけ医も家庭医もいなくて未受診でということが、どんどん最後まで悪循環に入ってしまったと思う。その意味では、なぜ未受診だったのか、例外はあるにしても、どうしてなのかお考えいただきたい。もうひとつは奈良に救急車の不適切使用が多いのか知らないが、消防が日々苦労しているというようなことが今回の遠因になっていないか」


事務局
「奈良県としては、個別の事例を扱って誰が悪かったというよりも、どんなことをすべきか前向きに取りまとめたいということで、検討会ではその点について深く議論されてはいない」
知事の政治判断、ということだ。

この後、海野教授と中井教授からそれぞれの調べた
未受診妊婦の割合が示された。
特筆すべきは
未受診妊婦の「半分くらい」(海野教授の横浜市データ)、「3割」(中井教授の日本医大病院データ)が分娩費を支払わないという点。しかも「リピーターが多い」(中井教授)そうだ。
未受診妊婦はハイリスク出産になりやすいという点と併せると
医療機関にとって「招かざる客」であることが、よく分かる。


島崎教授が異論をはさむ。
「そうはいっても、そういう人は救急全般に必ず存在する。そういう人を含めて診られるシステムが必要。産科救急を受けない医療機関は、かかりつけ医のいる妊婦の緊急対応もしないのか」


海野
「かかりつけの場合は無条件に引き受けていると思う」


島崎
「今まで診てないから知らないよという話か。他の都道府県でも似たりよったりか」


中井
「一般的には、どこの都道府県でも二次施設か三次施設である程度受け入れる。一次施設はあらかじめ〓で定めないと破綻する」


海野
「消防庁の数字によれば地域差が大きい。搬送受入までの照介回数が多いのは、奈良、神奈川、東京」


島崎
「東京都の特殊救急疾病対策では、必ずどこかの病院が引き受ける。そういうシステムは難しいのか」


中井
「周産期センターがブロックの調整をしており、引き受け先が見付からなければ、センターが取ることになっている。しかし現実にはNICUが長期入院者で埋まっており、その患者を新生児搬送してやっと受けている」
これ、おそらく産科の医師とそれ以外の医師とで
なかなか話が通じないところなんだと思う。
私も、昨日のシンポジウムで成育医療センターの久保隆彦産科医長が
以下のようなことを述べ、私もそれでようやく分かったのだが
「産科の救急ってのは、お母さんと子供と両方助けなきゃいけないから
どうしてもNICUが必要なんで
引き受けを断っているのは要するに小児科ですよ。
それを代わりに産科の医師が伝えているだけでしょ」
東京都の場合、実にNICUベッドの
実に4割が長期患者で埋まって固定化しているという。
その患者を引き受けてくれる病院(後方ベッドと呼ぶ)が
ないということでもある。


ここで消防庁から発言。
「奈良の救急車使用は人口1万人あたり全国平均が413件のところ399件ということで、特に不適切使用が多いということはないと思う」


いったん議論は打ち切られて海野教授、中井教授が
それぞれプレゼンを10分程度で行う。
資料は。。。厚生労働省のサイトにアップされないのかな?
今のところ見当たらないようだ。


議論再開。野口
「(前略)産科の場合、周産期センターがコーディネーター役をやってくれているが、手分けしてやろうやと言いたい。都道府県の提供する医療と、市町村の提供する消防という点で難しい点はあるが、主体的に連携したい」


山本
「広域搬送システムについて質問。二次医療圏でダメなら都道府県、それでダメなら近隣ということだろうが、それがシステム化されている地域とシステム化されていない地域との違いは何か。広域となるとドクターヘリや消防ヘリなど空の搬送も考えないといけないのだろう」


海野
「センターが多くないので二次圏で完結するのは難しい。基本的には都道府県単位で完結し、広域のことは何も決まりがない。この奈良の事案のあと近畿の知事会でシステム作りましょうという話になったが、まだ現場の人たちの話合いは始まっていない。母体搬送のヘリ利用は和歌山と千葉で盛んにやっている」


山本
「その広域搬送を平時でもどんどんやっていけば多少違うのでないか」


海野
「産科は産科救急しか知らないので、ぜひその辺りのやり方のバランスをぜひ教えていただければ」


ここから、少々話が迷走する。
島崎
「就労状況の話(中井教授のプレゼン中に出てきた、産科医は月に当直が6.3回あるという話)だが、救命センターでも全く同じだ。月に7回から8回は当直がある。労働時間は週に79時間で間違いなく法令違反。月の休日が2.5日。行政は早く2交替にしなさいと言うが、やった途端に人がたりなくなる。産科と救急と何が違うのかと考えていたのだが、産科は救急車をあまりうまく利用していないのでないか。最近、救急が母体の救命にかかわることが増えている。出血性ショックなんてのは、救急はお手のもの。今までインデペンデントだったが、協力できることは協力してやれないか」


中井
「就労状況で産科が救急と違うのは、通常の外来を持っていて、100人から捌いて、さらに予定手術をこなすというベースがあるので2交替でちゃっちゃとできない。もし2交替にするなら、かなり人数が必要になる」


海野
「連携の部分に関していうと、たしかに周産期センターの中には子供病院が基礎になっているものも多く、母体救急への対応がなかなかできていないのは事実だ。それぞれの現場で話し合ってもらえればと思う。私は長野子供医療センターから北里大へ移ったが、母体救急に関しては全然違う」


山本
「産婦人科の先生が救命センターの中へ入ってきて、全体の救急の流れを理解し、習得していただければ随分と状況は変わるのでないか。人手不足はみな同じだから一緒にやりましょうよ、ということを言いたい」


海野
「北里では既にやっているが、現場の実状からいえば日常勤務のボリュームが大きすぎて救急までたどり着けないというのが率直なところ。連携した形での組織づくりなど意識的に施設設計をしない限り、若い人にそこまでチャンスを与えるのは難しい」


事務局
「今後、全国的な対応はどうあるべきかについて、ご意見があれば」


中井
「医師に現場でコーディネートさせるのは酷。2時間も3時間も電話して、それでも受けてもらえなくて、自分のところの患児を新生児搬送して取ったというような話がザラにある。人的支援を速やかにお願いしたい。それから先ほどのワークシェアのことだが、1〜10までを全て産婦人科がやることはないというのはその通りで、産婦人科というのは内に籠るところがあるかもしれない。ジェネラル・フィジシャンというのは難しいにしても、ワークシェアという意味で、救命センターへ入れて産科的な部分だけアドバイスして戻る手はあるのかもしれない」


山本
「みんなで一緒にやりましょうよという話だ。受け入れできない理由に上がっている処置困難の大部分が出欠コントロールとDICでないかという印象を持っている。この辺は救急をやっていると主要テーマなので、皆で勉強できるのでないか。現場救急では、二次と三次の違いとして、救命の対応を断ってはいけないことになっている。だから救急隊の方でも、ある程度二次で断られたら三次にしちゃおうという暗黙のシステムになっている。全国規模になるとどうなっているのか分からないが、上になったら必ず取るという約束にしたらどうか」


中井
「二次、三次の定義が救急と違う。より未熟な新生児を見られるのが産科の高次医療機関」


海野
「22週の双子の破水とか診られる施設が限定されている。だから探しまくって何百キロも搬送することになる」


山本
「それ位リスクの高い患者さんが全く救急だけで来ちゃうということか」


海野
「かかりつけ医がいる人でもそういう苦労をしている。だから奈良の事案に即して考えると、まず一次搬送をどうするのかということになる。ドクターによるトリアージが済まなければ始まらない一方で、二次・三次が受け入れてくれない可能性もあるということになると一次では取りきれないのでうまく回らない。一次の部分だけは地域内で完結させる必要がある」


中井
「2〜3%の未受診者、これが担保できるだけのベッド数、医師数を組めればと思うが、その部分をどう考えるかということだ」


山本
「3%が多いか少ないかということですな」


事務局
「かかりつけ医がいないとネットワークに乗らない」


海野
「一次搬送の問題でいえば、救急隊が呼ばれる時点では未受診か見分けがつかない。しかし未受診にはハイリスクな症例が含まれている。となると、周産期医療センタークラスへという取り決めをしてしまう手はある。ただし、ここに未収金も問題もからんできて、公的病院ならともかく私立の施設がその未回収債権をいつまでも抱えていることはできない。未受診を受けるなら債権処理をしてもらえるようになっていないと病院としても受け入れに消極的にならざるを得ない」


島崎
「一番の問題は医療費の抑制政策。救急も中長期的には何とかしないと絶対にダメ。未受診と代金踏み倒しの問題は福祉そのものの話。救命センターが窓口として受けることは可能だと思うが、受け入れた後のサポートを病院から受けられるのか。中長期的には医療費の問題をぜひとも考えていただきたい」


海野
「救急も同じだと思うが、産科は大きな病院の中で収益構造上、強く言えない。収支を安定させるには予定手術をたくさん入れて粛々とこなすのがよい。何を病院の機能として期待するのかという部分を、診療報酬にも考えていただきたい」


山本
「別個に産科救急センターとかやり出すとマンパワーが足りなくなる。いかに既存のところを上手にテコ入れするかだと思う」


島崎
「診療報酬上なにか考えないと現場はどんどんやめている。やればやるほどマイナスになるからだ。救急をやっている部分に理解がないと、それは救急の崩壊ではなく地域医療の崩壊になってしまう」


野口
「搬送連絡で職員との連携は研修が大事だと思う。その際にはメディカルコントロールを使っていただきたい。消防庁にもマニュアルはあるけれど、どんどん約束事が増えて、百科事典のようになりつつある。被害者意識ではなく、是非お願いしたい」

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