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ニュース〜医療の今がわかる

ビジョン具体化検討会7

昨日の昼前に案内が出て今日開催。
先週に予告されていたとはいえ慌ただしい。
本日で中間とりまとめ、とのこと。
出席者は、こちらをご参照されたい。


とりまとめの内容は他のメディアでも速報されると思うので
急いで書く必要もあるまい。
それより複雑怪奇というか何というか
解釈に苦しむことが発生したので
議論の模様を採録する前に書いておきたい。

解釈に苦しむこととは、中間とりまとめ案の他に
「提言」なるものが、過去出席の参考人も含めた委員たちの連名で出されたこと。
全員連名であれば、「提言」と「とりまとめ」と一体どういう関係なのか悩む。
ただし、よく見たら大熊由紀子委員だけが名を連ねていない。
(追記:改めてよく見たら高久座長も名を連ねていなかった。失礼しました)


で、これは大熊委員が拒否したのかしらと思っていたら
大熊委員が「土曜日の席に私もいたのに私だけ抜きの文書が出てきた」と述べた。


本当にそんなことあるの?
なぜ、そんなことする必要があるの?
わざわざ委員たちが自ら瑕疵を作ったようなものだ。
にわかには信じがたい。
しかし、検討会の席で誰も、この大熊発言を否定しなかった。


マスコミが飛びつくに違いない。


誰か内幕をご存じありませんか?

昨日書いた問題は
どうやら持ち回りで文案を回した最後が大熊委員になってしまい
そうなったのは、大熊委員が文筆で生活している人なので
できるだけ穴のない状態で見せたいという思惑が働いてのことだったのだけれど
それに別の構図を感じ取った大熊委員が噛みついたということのようです。


「私だけ抜きの文章」というより
「私の意見が最後に回された文章」で
でも、そこに大熊委員が合意しなかったため
結果的に「私だけ抜きの文章」になってしまった、と。

その割には大熊委員のプレゼンは印象が強かったなあ、というのが正直な感想。
さすがメディア人と評価すべきか。
順を追ってご報告していく。


高久
「大臣から一言ご挨拶をいただこうと思うが少し遅れられるそうなので、来られたら一言いただきたい。では今日も多くの方から資料をご提出いただいている。時間がないので1人5分程度で説明をお願いしたい。まず海野委員から」


ここで海野委員が説明したのが、例の『提言』。なるほど、3回目、4回目の時も海野委員が過去の議論のまとめ資料を出していたっけと思いだす。
「私たちの考えるコンセンサス得られている部分についてまとめた。細かくは説明しないのでお読みいただきたい。これを出すのは、複雑で専門的な議論をしていたことと、時間が短く議論が十分でない部分もあったが、そういうことを踏まえても検討会の委員として提言としてまとめられるのでないかということ。今日は中間とりまとめをするが、今後も続けていただけるとのことなので、これに基づいてより充実したものにしていければ。なお、第5回の時に医師養成数を増やした時の推計がほしいという話が出たと思うので、それも付けた」
いずれ公表された時に全文お読みいただきたいのだが、この提言自体は非常に真っ当なものだ。大熊委員も中身に噛みついたわけではない。今回の経緯が気になる人も、一度は虚心に読んでいただきたいと思う。


舛添大臣登場。
「先週末も精力的にご議論いただいた。本日、中間とりまとめがコンセンサスを得た形でなされると聞いている。今後とも日本の医療の未来のために、必要に応じてお集まりいただき、ご検討いただければ。ありがとうございます」


高久
「引き続き大熊委員」


ここからが、昨日のエントリーに書いた大熊委員の発言である。
「土日と、がんセンターでの会合に参加したのだが、そこで私だけ抜かされて海野委員の原案が出てきた。これまでの医療を巡る議論というのは、医療費をいかに安くするかと、いかに開業医へ利益を持っていくかに終始していて、この検討会での論議は、今まで語られてこなかった医療の質や現場で働いている人たちのことのうち、働いている人々の焦点を当てたのはよかったけれど、患者と医療者とのパートナーシップ、上下関係でないパターナリズムでなく真実を共有して共に歩むという姿勢には欠けていた。

この文章も、その場に私もいたのに私だけ抜かされた形で、しかし委員以外の医者の名前は出ているということで、患者をおきざりに医療者だけで何でも決めてしまう閉鎖性が象徴的に現れているなあと思った。私だけが、そういう批判をするのでは説得力がないと思うので、この検討会にはメディアの人も大勢傍聴していて私にメールをくださる。それを読むことで代えたい。『医師の方々が現状を何とかしようと一生懸命なのは分かるが、行き過ぎではないか。論議を聞けば聞くほどそう思う。自分たちにとって都合のよい部分に予算をつけようという動きばかりで、これ程までに欲望が剥き出しになった検討会は滅多にないと思う。医療のことは自分たちだけで考えないといけないと思いすぎでないか。自浄が働けばよいが、この経緯を見ていると非常に不安だ』『論点の個々については頷けるところも多いが、全体として見ると医師の大陳情大会だなあと記者クラブなどで話をしている』。

この検討会は安心と希望をうたっているけれど、悪い言いかたをすると、それは患者の安心と希望ではなく、医療者の安心と希望とキャリアアップのためのものになっていないか。国民が望んでいることは他にあると思うので列挙する」
この発言で大臣が目を剥いた。以下は大熊委員提出の資料現物をお読みいただきたい。


国民が本当にそういうことを望んでいるかについての判断は留保するけれど、医療の現状が、患者国民の望んでいることを十分供給できていないというところは間違いない。また、そのミスマッチの原因がどこにあり、どうやったら解消の方向へ向かうのかの考察が、医療提供者側の論理でしかされていないのも事実だと思う。ただ、この検討会のミッションが、ビジョンの具体化つまり予算化だったということを思い出せば、『大陳情大会』という言いかたも失礼だろう。


問題があるとするならば、そもそもビジョンがビジョンたり得ていなかった、つまり根知的処方箋になっていなかったということであり、その意味では、最初のビジョンをきちんと批判的総括できなかった自分も責任を感じる。

高久
「次は岡井委員」


岡井
「そろそろ医療安全の議論が必要かなということで資料を出したのだけれど、今後も検討会が続くということだから、今日議論いただかなくても結構だ。資料としてご覧いただきたい」


高久
「嘉山委員」


嘉山
「大臣から、どのくらい大学で養成できるのかというご質問があったので、それをアンケートの形で各大学から集計してみた。新木さんも、もちろんご存じだろう。とりあえず来年の分だ。それ以降はまた別途やらないといけない」


土屋
「米国医科大学協会が2006年6月に出した勧告をつけた。2015年までに2002年と比べて30%の入学定員を増やせと言っている。日本が定員を増やしたとしてもアメリカはさらにその先を行っているということだけ示しておきたい」


高久
「私の資料は、以前に出すと言っていた日本女医会の調査。ご覧いただければ。では、私から中間とりまとめ案について説明する」
これも資料の方を見てほしい。私が傍聴していなかった5回目、6回目に新たに出てきたんだろうと推察される部分だけ挙げておく。

・医師需要を検証する観点から厚生労働省において必要な医師数について推計し直すべきである。その際、少子高齢化の進展や国民の医療に対するニーズや意識が変化していることを踏まえ、あるべき医療の姿もイメージしつつ、高齢化の状況、患者の診療動向、女性医師の増加や働き方に関する意識の変化、医師の勤務実態、世代間の状況、医療提供体制のあり方など様々なパラメータをできるだけ考慮した専門的な推計を行うべきである。
・より質の高い医師を効果的に養成する観点から、医師の卒前・卒後教育の連携をはじめとした臨床研修制度のあり方について、文部科学省と厚生労働省との合同の検討会を早急に立ち上げ、対策の具体化を図るべきである。
・地域全体の病院医師や診療所医師の連携を円滑に進め、診療所医師が病院での診療に携わることを進めるためには、病院における医療に対する診療報酬を、ホスピタルフィーとドクターフィーに区別することを検討する必要がある。また地域全体の病院医師や診療所医師の連携を円滑に進め、患者の入退院・転院を円滑に進めるためには、地域の医療機関における電子カルテの情報共有が必要である。また医療の透明化を図るため患者が無料で明細書(診療内容がわかる領収書)を受け取ることができるようにする必要がある。


岡井
「内容には問題ないのだが、公式の結論として出すなら文言を検討してもらいたいところが何点かある。医師養成数を書き込む前に、現在供給不足であるという現実を書いた方が理解を得やすいだろう。需給バランスが大きく崩れていることを書いた方がいい。それから、『子供を守ろう、お医者さんを守ろう』というキャッチフレーズはわかりやすくていいのだが、他の部分の書き方と揃えて一般化した方がよくないか。前後して申し訳ないけれど、医師数を増やしても、それが大都会に行ってしまったら問題解決には役立たない。増加した分が地方へ行くよう具体的に検討しなければいけないと思うので、その旨、私などは増やした定員分は当該地域の出身者の枠としたらどうだろうかと思うのだが、それは合意を得られないかもしれないので、とにかく検討が必要なんだと書いておくべきでないか。もう一つ『医学部教育・地域医療に支障を来さない範囲』というのが、意味がよく分からない。この言葉はなくてもいいのかなと思うのだが」


嘉山
「私の言わんとしたことは、範囲ではなく、支障を来さないようという意味で、十分な数が必要というニュアンスだった。範囲ではなく程度ではどうか。過去最大より多めにということ」


高久
「このままだと、ちょっと意味が通じない」


嘉山
「大臣にお願いされた720人を放り込むと過去最大を上回るので、それが蹴られないように」


高久
「この言葉は入れなくてもいいんじゃないか」


嘉山
「過去最大をリミットにしてほしくない。各大学がやるよと言っているので」


小川
「今のところ、高久先生に賛成。むしろ国際的な現状を書き込んで、はじめはエビデンスから始めて、そのうえで余計な言葉を入れないようにすべきでないか。定員もあまりジャンピングではないように」


吉村
「医師偏在の話でいうと外科系が減っていて、たしかにインセンティブも大事だとは思うのだけれど、議論されていて反映されていないかなと思うのが訴訟リスクのこと。できれば安心して診療にあたれる環境ということも書き込みたい」

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