【投稿】我が国の医師国家試験の問題点
②国家試験に対する「不必要な」ストレスの軽減
ここでは国家試験の運営方法と合格発表についての2点、提案させていただきます。
(1)ペーパー試験からコンピュータ受験へ
現行では、国家試験は遠方の会場へ受験生一同を集め、3日間教室へほぼ缶詰にしてペーパー試験で行われています。これはインフルエンザ等の感染症を公共の場で誘発しているだけでなく、試験会場確保や試験問題の印刷・運搬にかかるコスト面からも得策ではありません。本年度の試験会場地は北海道、宮城県、東京都、新潟県、愛知県、石川県、大阪府、広島県、香川県、福岡県、熊本県、沖縄県の全国計12箇所ですが、岡山県の受験生は海を渡って香川県へ、東北地方の大学は仙台に行かねばならない一方で、新潟や石川は地元で受けられるなど、公平性の面からも問題があります。
国家試験がPCで受験可能になれば、試験会場への移動・宿泊・受験に関して不慮の事故や体調不良という、知識に関係のない部分で不運な結果に終わる、というリスクを最小限にできます。たしかに事故や体調不良を自分でコントロールできない人間は医師になる資格はない、というご意見もあると思いますが、1年間必死に勉強してきたにも関わらず、直前にインフルエンザや事故のせいで1年留年する、ということは本人にとっても、社会にとっても不利益なことではないでしょうか。
全国の医学部では4~5年生時に共用試験=コンピューターを用いた客観試験(Computer Based Testing:CBT)が平成17年から正式運用されており、平成20年からは全80医学部が参加しています。医師国家試験を各大学でパソコン(以下PC)受験するために必要なハードは整っていると言えるのではないでしょうか。
実際平成16年度には厚生労働科学研究費補助金で医師国家試験コンピュータ化に関する研究報告書が提出され、日本の医学生計580人をペーパー試験とコンピュータ試験の2群に分けて成績を比較し「(国家試験のような)MCQ(multiple choice question)問題をコンピュータ試験で行なうことに大きな問題はなく、またその得点は紙のテストの結果とほぼ一致した」と結論づけており、国家試験をPC化する準備が以前より進んでいたといえます。しかし平成17年に情報公開制度を利用した総務省に対する医師国家試験の問題用紙及び正答値表の開示要求が承認され、それまでプールしていた問題と解答を開示命令がだされました。
それを理由に日本の医師国家試験のPC受験の話は頓挫したのだ、と話される方もみえます。確かにプール制が導入されている前述の米国の医師免許試験(USMLE)や日本のCBTでは問題は非公開です。しかし情報公開制度の答申書が指摘しているように、プール制を導入している大学入試センター試験でも問題を回収しておらず,問題の回収をしなくてもプール制が可能である事(答申書2p)、プール制であっても毎年少しずつ数字や問題を変えれば問題を開示してもいいのではないかという考えもあると思います。
コストを考えた場合ですが、CBTを行っている(社)共用試験実施評価機構(以下、CATO)の平成20年度の財務報告書に記載されているCBT関連事業の支出が63,300千円(全80医学部で7,756人が受験)に対し、医師国家試験で受験者から回収している金額は、受験手数料15,300円×受験者数約8,500人=130,050千円(平成21年春の国家試験出願数8,687人)です。前者に機構職員等の人件費が入っていなかったと仮定しても、医師国家試験のPC受験は経済的にも十分検討の余地があると考えます。
(2)合格発表の早期化
例年通り今年も合格発表が3月29日と非常に遅く、4月から新しい場所で研修を始める新研修医(現6年生)にとって非常に大きな負担となっています。これらは、3月末まで自分の合否がわからない上に、合格が決定したら数日以内に就職先へ引っ越しを行わなければならない受験者、採用予定だった学生が試験に不合格となり欠員が出た病院(早急に二次募集を行わなければならない)双方への考慮に欠けていると言わざるをえません。(既に結果は出ているにも関わらず)大学の卒業式が終わって卒業証明書が発行にならなければ国家試験の合格発表ができない、という規定に縛られた融通の利かない運用ではなく、現場に配慮した現実的で柔軟な対応を要望いたします。