在宅医療のABC
在宅医療とは、どんな患者さんに、どんな医療を行うものなのか、みていきましょう。
前ページでも述べましたが、隔離や手術、集中治療などの緊急的な医療処置を必要とする方は入院が必要です。在宅医療の対象にはなりません。
そういう処置が必要な時期を「急性期」、必要ない時期を「慢性期」と呼びます。必要ないのではないけれど積極的な治療法が乏しい状態になると、いわゆる「末期」です。
ですからこの表現を使えば、在宅医療の対象になるのは「慢性期」か「末期」の患者さんということになります。もちろん、「慢性期」「末期」の患者さん全てが対象になるわけではありませんし、「慢性期」と「末期」とでは、必要とされる医療も全然違います。
通常の「慢性期」の患者さんは、外来通院で医療を受けます。足腰の衰えや認知(痴呆)症などによって、どうにも通院が困難だとなった時に、在宅医療のひとつ「訪問診療」を受ける選択肢があります。
訪問診療と聞くと、患者の求めに応じて臨時に医師が訪問して治療する「往診」のことと思うかもしれませんが、別の行為です。患者さんの健康状態を維持・向上させるために、事前の計画に基づき、定期的に医師が訪問して医療行為をすることと定義されています。具体的な行為は表をご覧ください。
同様に看護師が訪問する訪問看護や理学療法士の訪問する訪問リハビリテーションなどもあります。
続いて「末期」の方の場合ですが、最善の医療や生命の延長を追求するよりも生活の質に重きを置きたいと考えたときに、医療機関を出て、できるだけ長く家で過ごすという選択肢があります。
これを在宅医療、在宅介護が支えます。家族の看病も含め、うまく病状をコントロールできたなら、家で最期を迎えることも可能です。
介護? と引っかかった方、鋭いです。積極的な治療法に乏しいような方の場合、医療と介護とは限りなく境界があいまいになっていきます。食事を取るとか、排便をするとかいった基本的な生活すら、安全面に配慮しないといけないからです。
そして、これは言葉だけの問題ではなく、サービスの利用料を医療保険で払うのか、介護保険で払うのかという問題でもあります。4月から40歳以上の末期がん患者にも介護保険が適用されるようになったというのは、先月の介護保険特集でもご説明しましたね。
積極的な治療法が乏しい状態になってからは、医師よりも看護師の果たす役割の方が大きいというのも覚えておいてよいことかもしれません。